第229話 母の思い
「待ってちょうだい。デザートも大切よ」
「奥様、デザートは色々取り揃えますよ」
「そう! ならいいわ」
ばーちゃん、スイーツ大好きだからな。
「だってココちゃん、美味しいのですもの」
「お祖母さま、桃のタルトも美味しそうですね」
「まあ! 私、桃は大好きなの!」
「奥様、桃も沢山持ってきていますよ。タルトも出しましょうか?」
「ええ、是非お願い!」
どんだけ持って来ているんだよ。普通、移動中に桃なんて使わないだろう?
「ココ様、旦那様は移動だけでは済みませんから」
ああ、そうだった。色んなところに寄り道して、助けが必要なところにはドッと出しているんだな。
「本当にマジックバッグを作って頂いて助かります」
嵩張らないし、腐らないからな。うん、良い事したよ。
「アハハハ。ココはまだどれだけ領地にとって有益なのか分かっていないね」
「そうですか?」
「そうだよ。マジックバッグ1つあるのとないのとでは大きな違いがある」
そうか。でも便利ならいいじゃん。それで大勢の人達の為になるなら、よりいいじゃん。
「そうだね、父上はそういう人だ」
「お前達の父上は、素晴らしい事をしているんだ」
「そうね、領地だけじゃないわ。だから、この国の守護人とまで言われるのね」
それは、父だけじゃない。じーちゃんも、そのまたじーちゃんもだ。代々の辺境伯がやってきた事だ。
「メニューも決まったし。さあ、ココちゃん」
え? 何だ?
「持って来たドレスを全部出してちょうだい」
「お祖母さま、全部ですか?」
「そうよ。晩餐会に出るのだから、ちゃんとチェックしなくちゃ」
俺も出るのかよ。絶対参加なのか? 俺、裏から見て解呪とかじゃ駄目なのか?
「まあ! ココちゃん、何を言ってるの!」
はいはい。出ますよ。そしてドレスも全部出しますよ。
「サキ、お願い」
「はいですぅ。でも、奥様。お部屋に移動しましょうぅ」
「そうね、そうしましょう」
と、いう事で俺の部屋だ。
咲がドドンと出した。俺のドレスや普段着ている服は全部咲が持っているんだ。
「まあッ!」
「げッ……」
驚いた……マジで。いつの間にこんなに作ったんだ?
「奥様が例の生地で作ったものは全部持って行くようにと仰ったのでぇ」
母よ、恐るべし。いつの間にかあの生地を使ってオーダーしていたらしい。
咲が出した俺用のものだ。ちゃんとした夜会にも着ていけるドレスに昼間のお茶会用、普段着る様のワンピースもだ。それに何故か男装用の服もあった。
其々にあわせて靴やバッグ、帽子まである。
「お嬢さまぁ、男性用の物を入れてますよねぇ」
「あ、そうだったわ」
「ココちゃん、それはバルトやロディの分かしら?」
「お祖母さま、それだけじゃありません。殿下やお祖父さま、父さまの分もあります」
「まあ! 完璧じゃない!」
「奥様の分も預かってますぅ」
「あら、生地だけじゃなくて?」
「はいぃ。きっと必要になるだろうからと奥様がぁ」
と、ばーちゃん用のドレスをドドンと咲が出した。ばーちゃんに似合いそうな柔らかい品のある色味とデザインだ。
「お祖母さまにピッタリですね」
「まあ、ココちゃん。そうかしら?」
「はい。どれも素敵です」
「ふふふ、あなたのお母様は色々考えてくれていたのね」
本当だ。いつの間に用意したのか俺は全然知らなかった。
俺は、父や兄、王子用の事ばかり考えていて、ばーちゃんや自分の事は頭になかった。母に感謝だ。
要するに母は全員の分の衣装を用意してくれていた。次から次へと咲がマジックバッグから出したんだ。姉や兄達の婚約者の分、それにじーちゃん一家の分もだ。
下手したら隆や従者の分か? と思えるような物まであった。
母はどんな思いでこれを用意していたのだろう。
本当に心配してくれているんだ。だから、念には念を入れて用意してくれたんだ。
きっとどれだけ準備しても、母は心配を拭う事なんてできなかったのだろう。
母の思いが今更分かって、目頭が熱くなる。
俺はあんまり分かっていなかった。母の思いだけでなく、どれだけ危険な事なのかをだ。
「ココちゃん、あなたの母様はそういう人なのよ」
「お祖母さま、本当に心配を掛けてしまいました」
「ふふふ、そうね。でも、心配をするのは親の仕事なのよ。私だって今でも心配ばかりよ」
「お祖母さま……」
いかん、泣きそうだ。この母だから俺の母がいるんだ。そっくりじゃねーか。
「お祖母さま、大丈夫です。みんな無事に戻ってきますよ」
「ええ、そうね。信じましょう」
俺や咲が持って来た衣装を其々に配った。グスタフじーちゃんは驚いていた。
「私にもあるのか!?」
そうなんだよ。色々入れていたからすっかり忘れてた。
王子にはこっちの色がいいよな?
瞳と同じミッドナイトブルーサファイアの色なんだが、生地を織る時に模様を織り込んである。
光の加減で模様が光って見える。派手ではなく、どちらかというと落ち着いたものだ。
「僕にまで申し訳ないな」
「何を言ってるんですか。殿下が1番危ないんですよ」
「そうかな?」
「はい、そうです」
「アハハハ。僕にはココ嬢の方が危険に思えるよ?」
「え? そうですか?」
「そうだよ」
まあ、既に拉致られちゃったし。
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