第228話 いつの間に

 さて、第3王子の話に戻ろう。


「殿下、しかし殿下をクーデターの首謀者に、祭り上げようとしている貴族もおります」

「侯爵殿、だからこそです。私は一切関係ないと自分の口から言いたいんだ」


 あ、それで思い出しちゃったぞ。俺、大聖堂で変なの見たぞ。


「ココ、どうした?」

「ロディ兄さま、関係ないのですが、実は大聖堂で……」


 と、今更だが話した。夢で見たものと同じ様なものを見たのだと。それも、お祈りをしている時にだ。


「クリスティー先生が、先読みの能力かも知れないと仰っていたあれか?」

「はい。ですがいつもは夢なのです。大聖堂の時は起きてました。寝てません」

「アハハハ。ココの事だから一瞬眠っていたとか?」


 あ、バルト兄。ひでーな。


「バルト兄さま、寝てません」

「3人の王子殿下が揃っておられて、その前に王女殿下か……」

「王女殿下はもう移られたのですか?」


 そうだよ、ロディ兄。そこ、気になるよな。あれから第1王女は解呪したんだし。


「ロディ、安心しなさい。昨日、前王妹の公爵夫人に付き添われて移られたそうだ。嫌がって泣いて抵抗しておられたそうだがな。有無を言わせず、お連れになったそうだ」


 その前王妹の公爵夫人、怖いらしい……相当にだ。悪い人ではない。ただ、王族としてこうあらねば! と、教育が厳しくて有名なのだそうだ。

 だが、第1王子や第2王子もこの公爵夫人に教育を受けていたが、可愛がられているそうだ。

 唯一、この人に教育を受けていないのが第1王女らしい。


「僕も母が亡くなって幽閉されるまでは教えて頂いてたよ。怖いと皆は言うが、そんな事はなかったと記憶している。まだ僕が幼かったからだろうが」


 第3王子も教育を受けていた。なのに、何故第1王女だけが受けていないんだ?


「逃げておられたんだ」


 グスタフじーちゃんだ。よく知っているらしい。


「嫌だと駄々を捏ねられて、毎回お逃げになられていたんだ。困った殿下だとあの頃は少し問題になった」


 なんだよ。王女って、精神干渉前からとんでもないじゃんか。我儘な王女だな。


「ココ、だから言っただろう。基本的にはあまり変わっておられないと」


 おう。ロディ兄は学園で一緒だったんだよな。


「毎日が苦痛だったよ。僕がスキップして早く卒業しようと思ったきっかけだ」


 そんなになのか!?

 ロディ兄が思い出すのも嫌そうな顔をして話を続ける。


「毎日毎日あの調子だ。成績順で分けられるからクラスは違ったのだが、休み時間の度に押しかけて来られるんだ」


 そりぁ、嫌になるな。


「しかも、ココ。王女殿下だから無碍にはできない。その上、あの見た目だ」

「ロディ兄さま、学園は制服なんでしょう?」

「制服にあの化粧と髪飾りだ」


 げげ……


「だろう?」

「フフフ、今でも語り継がれてますよ。ロディ兄様」

「エリア、止めてくれ」

「兄様の冷気がより冷たく凍るとか」


 凍りもするだろう。そこに精神干渉だから、ああなったんだな。


「公爵夫人がなんとかして下さるだろう」

「あなた、その夫人から逃げておられた王女殿下ですわよ」

「そうだが、今回は同じ屋敷にいるんだ。逃げ場はないだろう」


 そう思いたいね。


「唯一の王女殿下だから甘やかされたのだろうね」

「王妃様がですわね」


 どっちにしろ、大人しくなってもらいたいもんだ。

 さて、その晩餐会にうちの領地の食べ物を出す事になったんだ。前にばーちゃんが思いついた事が現実化する事になってしまった。

 しかも、材料だけでなく料理人も協力する事になった。城のシェフ達は辺境伯領の食べ物や調理方法に興味津々なのだそうだ。

 お陰で、料理人達が超張り切っているよ。領地では珍しくも何ともないものが、いきなり脚光を浴びたんだ。

 厨房から『ウェーイ!!』て大声が聞こえてきた位に喜び張り切っている。因みにうちの領地の料理人達も脳筋集団に加入している。


「ココちゃん、新しいものはもう無いのかしら?」

「お祖母さま、新しいものと言っても分かりません」


 俺にとっては、新しくも何ともないんだから。その上、俺自身が領地から出た事がないから、何が新しくて何が珍しいのか分からない。


「ココ、今の時期ならワイン煮込みはどうだい?」

「ロディ兄さま、ワイン持ってきてますか?」

「今年のはまだ無いだろうけど、去年の物なら沢山持ってきている筈だよ」

「ワインは美味い。他のは呑めないな」

「ええ、本当に」


 シゲ爺が喜ぶよ。杖を振り回してさ。


「茶色のモーモーちゃんのスネ肉を煮込みますか?」

「ああ、美味そうだ」


 じーちゃん、本当に美味いぞ。


「ココ、良いんじゃないか? あとは海の幸なんてどうだ? 王都だと珍しいだろう?」

「そうですね」


 そういえば、王都ではあまり魚介類を見ない。うちの領地が遠いからか?


「輸送している間に傷んでしまうからね。 でもこれからは大丈夫だ」


 あれか? 俺がマジックバッグを作ったからか?


「そうだよ。ココのお陰で領地の収益が増えるね。良い事だ」


 じゃあ、シーフードたっぷりのパスタかパエリアでも作るか?


「パエリアがいいだろう。珍しいだろうから」

「ロディ様、ではワイン煮込みとパエリアで」


 料理人がメモを取りながらロディ兄に確認している。

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