第227話 じーちゃん一家

「王女殿下が、前王妹である公爵夫人にお預りとなったそうだ」


 前王妹? 前王の妹君だそうだ。なんでも、とにかく礼儀作法に厳しく厳格な人物らしい。ディオシスじーちゃんがそう話していた。俺は当然、全く知らない。


「表向きは病気療養だそうだが、教育のし直しだろう」


 なるほど。それは良い。ロディ兄の心配もなくなったじゃん。良かった良かった。


「さて、これだけ大っぴらになったんだ。敵は我々を狙ってくるぞ」

「皆、其々に気を付けるんだ。必ず、2人1組で動くように」


 と、軍師役の2人のじーちゃんがみんなに注意を促した。

 メイドさん達大丈夫かなぁ? かなり城の奥まで、入り込んでいるみたいだけど。


「お嬢、大丈夫ッス」

「はいぃ」

「そう?」

「みんな強いッス」

「でも、魔法でこられたらね。心配だわ」

「お嬢、みんな持ってるッス」

「はいぃ。お嬢さまお手製の魔石ですぅ」


 そうだった。みんなに渡してあるんだ。なら、大抵の事は大丈夫だろう。

 そこら辺の奴等には負けない腕もあるし。魔石には、魔法抵抗やシールドも付与してある。もしも危険になったらその場を逃げる事くらいはできるだろう。

 とにかく、危険を感じたら逃げて欲しい。安全第一だ。


「逃げるどころかですぅ」

「ッス」

「え? 何?」

「やり返しそうで怖いッス」


 駄目じゃん。やり返したら駄目だよ。安全な場所まで逃げてほしいんだよ。やり返して、またやられちゃったらどうすんだよ。か弱いおねーさん達がさぁ。


「みんなイケイケッスから」

「はいぃ」

「蹴りの1つでも入れそうッス」


 いかん。こんなところに、脳筋の影響が出ているぞ。


「蹴りだけならまだましッス」

「はいぃ」

「え? 何すんだよ」

「暗器仕込んでるッスから」

「ビュビュッとナイフをぉ」

「マジかぁ」

「マジッス」


 ほんと、うちのメイドさん達はお転婆さんだよ。


「お嬢、違うッス」

「何がよ?」

「お転婆なんてもんじゃないッス」

「強いですからぁ」


 考えるのはよそう。無事でいてくれる事だけを祈っておこう。

 数日後、また全員揃って打ち合わせだ。

 何故かというと、第1王子主催の晩餐会が1週間後に催される事が決まったからだ。

 1週間後、それまでに出来る限り準備をしたい。

 それに合わせて、クリスティー先生も魔法陣を送ってくれるそうだ。


「ココちゃんは狙われているのよ。姉さまのそばを離れないでね」


 エリアリア姉だ。アンジェリカ嬢と2人、学園が終わってから態々やって来て参加している。張り切って茶菓子を食べている。食べに来たのかよ。


「そうね、私もそばにいるわ」

「姉さま、アンジェ様、ありがとうございます」


 この2人は強い。たかが不成者程度なら簡単に素手で打ち負かしてしまう。騎士団の入団テストにも合格するだろうとお墨付の腕前だ。


「でも、姉さま。晩餐会に剣は持って行けませんよ?」

「ココちゃん、剣だけが武器じゃないのよ。大事なココちゃんに何をしてくれているのかしら」


 お、おう。こえー……姉の微笑みが怖いぞぅ。その握りしめているデザートナイフを置いてくれ。


「侯爵、辺境伯、その晩餐会には私も出席しようと思う」


 久しぶりの登場、第3王子のフィルドラクス・ヴェルムナンドだ。

 こっちに来てから全く登場しなかったが、第3王子は毎日鍛錬を欠かさなかった。ある日はユリシスじーちゃんに、また別の日は父やバルト兄に教わりながら毎日毎日鍛練していたんだ。

 自分の体力を少しでも取り戻したい。少しでも自分で自分の事を守れるようになりたいと言って、鍛練を欠かさなかった。


「僕はココ嬢のように、魔法に秀でていたりしないからせめて体力くらいはね」


 と、話していた。第3王子の護衛であるアルベルトは感動して涙を流していたとか。そして嬉々として一緒に鍛練していた。

 アルベルトは元々は騎士団所属だ。だから、父達が騎士団に潜入する際にも色んな人を紹介してくれたらしい。

 グスタフじーちゃんの息子であるイーヴェル伯父さんの次男もだ。

 ここでグスタフじーちゃん一家をちゃんと紹介しておこう。


 息子がイーヴェル・セーデルマン。俺の母の兄だ。俺達から見れば伯父さんに当たる。

 現在、城で事務方のトップと言ってもよい事務次官をしている。忙しい中、俺達の補助もしてくれているらしくて、俺が起きている時間には滅多に帰ってこない。申し訳ないね。

 伯父には息子が2人いる。

 長男は、ルティオ。現在22歳。文官だ。跡を継ぐべく、父のイーヴェル伯父さんに付いて勉強中らしい。領地経営も覚えなきゃならないから、グスタフじーちゃんの手伝いもしているらしい。

 次男が、クララス。現在20歳。騎士団付きの事務補佐官をしている。

 父達が騎士団に入り込めたのもこの次男の力が大きいそうだ。

 2人共、婚約者がいる。長男はそろそろ婚姻しようかという感じだったのだそうだが、俺達が来た事で全く準備に時間が割けなくなり延期になりそうなんだそうだ。

 重ね重ね申し訳ない。

 俺は早い時間に寝てしまうから、この2人にまだ会った事がない。噂によると、俺の寝顔を見に帰ってきているとか何とか。キモイからやめて欲しい。

 イーヴェル伯父さんの奥さんだが、俺達が来た頃には偶々領地に行っていて留守をしていた。そして危険だからと、ずっと領地に行ったままだ。

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