第226話 いい迷惑だ

 俺達はじーちゃんの屋敷に戻ってきた。


「ココちゃん!」


 ガバッとばーちゃんに抱き締められた。


「心配したわ。私が街になんて、連れ出さなければ良かったのよ」

「お祖母さま、そんな事ありません。あたしがサキと一緒に離れてしまったからです」

「お嬢、姉貴、マジ頼むッス」

「リュウ、ごめん」

「えへへぇ」


 咲、『えへへ』じゃねーよ。そこは素直に謝ろうぜ。


「だってぇ、あたしはお嬢さまのそばを離れませんでしたよぅ」


 そりゃそうだ。一緒にキャアキャア言って喜んでいたからな。


「お嬢さまぁ、それでもですぅ」


 拉致られる時は、何故か咲と一緒ってどうよ?


「ふふふぅ。巡り合わせってやつですぅ」


 そうかよ、もういいよ。


「偶々じゃないんですよぉ。あたしがお嬢さまのそばを離れていない証拠ですぅ」


 はいはい。なら、今度から拉致られる前に教えてくれ。


「えぇ、それは無理ですぅ」


 意味ねーじゃん。


「お嬢、無理ッス。一緒になって遊んでるッス」


 遊んでるとか言うな。

 とにかく、収穫はあったじゃん。あの侯爵もどうしようかと話していたところだったし。

 他の貴族達も集めてくれるらしいし。て、ロディ兄が静かだぞ。どうした?


「ココ、あの王女殿下の顔を見たらな」


 それは言ってはいけない。可哀そうじゃん。まだ精神干渉されていたんだし。


「精神干渉が解けてどうなるかだ。王女殿下には婚約者もおられたからな」

「婚約者の方は、良い気分ではないだろうな」

「お祖父さま、王女殿下は何か仰っているでしょうか?」

「それはそうだろう。あれだけ、ロディに執着していらしたんだ」


『いい迷惑だ』

 て、ロディ兄の声が聞こえてきそうだ。ロディ兄は信頼している者以外には冷淡だからな。なんせ、令嬢の心も凍り付くんだろう? ハッハッハ。


 翌日、無事に王女は意識が戻ったらしい。そうグスタフじーちゃんに連絡があった。

 念のため、2~3日養生してから城に戻るんだそうだ。が、なんせ王女殿下だ。あれでもさ。

 だから、王女が滞在しているハーレイ侯爵邸には騎士団が厳戒態勢で守りについた。そして、その当事者である王女からロディ兄に文が届いた。

 ずっとお慕いしておりました。と……

 反省してねーじゃん。


「そんな事より、他に言う事があるだろう」


 とは、ロディ兄の言い分だ。確かに、俺にはなにもなしだ。拉致っておきながらだよ。本当にあの王女、大丈夫なのか?

 それから、程なくして王女殿下の婚約解消が発表された。

 婚約の『解消』だ。『破棄』ではなくてな。

 お相手の侯爵家の子息が、もう手に負えないと申し出たらしい。しかし侯爵家の子息から、王女殿下に対して婚約を破棄等とは言えない。だから、解消なのだそうだ。


「思っていた以上に、好き勝手な事をなさっていたようだ」


 と、じーちゃんが言ってた。

 婚約者との面談をブッチし、おまけに学園では素行不良、成績も振るわなかったらしい。極め付けが、ロディ兄と何が何でも婚姻するんだと言いふらしていた。

 お相手のご子息は災難だね。婚約が解消できて良かったのかも知れない。将来の事を考えるとさ。

 しかし、王都はその話題で色んな噂がたった。王女がご乱心だったとか、ご子息の方がもう嫌になったからだとか。

 どれも、一概に間違っているとは言えない内容だからなんとも言えない。


「これで、少しは落ち着いて下さると良いのだが」


 と、ロディ兄の希望だ。最悪は婚約が解消になって、晴れて1人になった王女がまたロディ兄に言い寄らないかという不安があるんだ。そこまでするか? とも思うのだが。


「確かに精神干渉されていたのだろうが、基本的にはお変わりはなかった」


 なんてロディ兄が言っていた。おお、怖い。あれが素に近いとなると、とんだじゃじゃ馬だ。

 そして、解呪の方だ。第1王子が融通を利かせてくれて、城に主だった貴族を集めてくれる事になった。

 もちろん、ハーレイ侯爵が名を挙げた貴族達も含まれる。そこで、一気に解呪だ。


「だが、ココ。王女の暴挙が誘導されたものだとしたら、敵は狙っているぞ」


 軍師の1人、ディオシスじーちゃんが言った。なるほど、俺を狙っているのか。鋭いじゃん。マジ、当たってるじゃん。


「そりゃあ、あれだけ解呪して回っていたんだ。敵にも分かるだろう」


 そうだよな。でも、解呪していたのは俺だけじゃないぞ。可愛い可愛いノワちゃんだって沢山解呪したんだ。


「アン!」


 あんまり出番がないけどさ。


「クゥ~ン」


 アハハハ。可愛い。可愛いだけで充分だよ。


「アン!」


 今日も可愛くお座りして元気に尻尾をブンブン振ってくれている。これでも最強のブラックフェンリルなんだ。敵はそれを知らない。

 そして、こいつの存在もバレていないらしい。


「俺様サイキョー!!」


 今日も裏庭で、ユリシスじーちゃんと一緒に鍛練をしている。本当、煩い。


「キリシマ! もう1度だぁッ!」

「何度やっても同じだぜぃッ!」


 この2人、良いコンビだ。もう1人の大きい声の脳筋リーダーはというと、バルト兄と一緒に近衛兵に接触をしようと頑張っているそうだ。

 それにしても、守りが堅い。色んな方向から切り込んでいるらしいが、なかなか近衛兵に辿り付けないでいる。

 やっぱ、王と王妃に関わるからだろうか。

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