第225話 侯爵も

「精神干渉の所為なのか。それとも、今まで気持ちを抑えておられたのか……」


 じーちゃん、そこは精神干渉の所為にしておこうぜ。


「ハハハ、ココ。そうだな」

「しかし、この事は王子殿下にご報告しないといけません」

「ロディ、それは当然だ」

「このまま気が付かれるまでお願いできますか? あなたの処分もあると思いますが」

「はい、分かっております。お止め出来なかった私も悪いのです」


 皆がソファーで気を失っているド派手な王女殿下を見た。

 何度も言うが、頭に孔雀の様な羽根のついた小さな帽子を乗っけて、目の周りは太いアイラインにグリーンのアイシャドー、口紅は真っ赤だ。


「まるでピエロじゃないか」

「これ、ロディ」

「ロディ兄さま、そんな事を言っては駄目ですよ」

「ココも思っていただろう?」


 そりゃ、思っていたけどさ。口に出したら駄目だ。

 そこに廊下をドタドタと走る音がして、父親のボリス・ハーレイ侯爵が入って来た。


「なんの騒ぎだ!? なんなんだ!?」

「お父様……」

「お、王女殿下! お前達、何をしたんだ!?」

「ココ、やるぞ!」

「ええ、ディスエンチャント」


 問いに答えもせず、何も説明もせず、俺は侯爵に向かって詠唱した。すると、黒いモヤモヤが出てきた。だが、侯爵も少し深い。まだ、モヤモヤが中に戻ろうとする。


「もう1回だ!」

「ええ! ディスエンチャント!」


 すると、やっと黒いモヤモヤが何処かへ飛び出して行った。何処かってきっと城の何処かだろうけどな。

 侯爵はその場に膝をついた。


「お父様! 大丈夫ですか!?」

「ん……私は何を……お、王女殿下!?」

「お父様……」


 オリヴィア嬢が事の顛末を話した。すると、侯爵は項垂れ頭を抱え込んだ。


「なんという事を……私は一体いつから……」

「失礼、よろしいですか?」


 ディオシスじーちゃんが侯爵の手を取りソファーへ座るようにと促す。


「貴殿は?」

「私は前辺境伯の弟でディオシス・インペラートと申します。ご気分は如何ですか?」

「多少、ふら付きはするが……大丈夫だ。寧ろ、頭はスッキリとしている」


 じーちゃんが、解呪したのだと説明した。知らないうちに精神干渉されていたのだと。

 侯爵はソファーにドッシリと座り項垂れながらも、しっかりと受け答えをしている。


「陛下と王妃殿下が、お目見えにならないのは何故なのかご存知ですか?」

「いや、私はなにも……私が宰相を務めていた頃には、もう部屋を出てこられなかったと思うが……何分記憶が曖昧で。どうしてそれを放っていたのか、おかしいと思わなかったのか其れさえも分からず……」

「それが精神干渉なのです」

「なんと……では、辺境伯は王都に来られているのか? それもこの件でなのか?」

「はい、第3王子殿下が精神干渉を受けておられ、何度もお命を狙われたのです」

「なんという事だ!? そういえば、フィルドラクス殿下は今どこにおられるのか?」

「甥のアレクシスが領地へお連れしたのですが、今回一緒に来られております」

「お元気なのですな?」

「はい。毎日元気に過ごしておられます」

「ハァ~、それは良かった。此度の件、娘と同行して城に参らなければならない」


 ディオシスじーちゃんが侯爵と話をつけた。

 俺の拉致は無事だったのでさて置き、取り敢えず王女が意識を取り戻すまで屋敷で面倒を見てもらう事になった。

 王女の意識が戻ってから、同行して登城してもらう。その際に改めて全てを第1王子に話してもらう事になった。

 それと、宰相時代に一緒に行動をしていた者達を教えてもらった。その者達も解呪が必要だろうからだ。


「それなら、私の従者も……あの、ところでその小さなとかげは……?」

「ん? 俺か? 俺は偉大なるエンシェントドラゴンだッ!」


 今までボーッとフワフワと浮いていた奴が、思い出した様にいきなり凄んでもな。


「はぁ……その……?」

「本当にエンシェントドラゴンなのです。父親に小さくされてしまったそうでこの見た目ですが、確かにドラゴンなのです。ココアリアに加護を授けてくれております」

「なんと! 加護を!?」


 そうなんだよ。そして、侯爵の解呪にも手助けしてくれたんだ。こう見えて、頼りになる奴なんだよ。そうは見えないけどな。


「ココ! お前ほんっとツンデレだな!」


 いや、だから俺は素直だっての。


「ココー!」


 霧島が俺に向かって腕をパタパタと振り回す。殴っているつもりなのかな? 霧島くん。


「本気じゃねーの分かってるだろうよ!」


 アハハハ。もう既にパターンだな。


「なんとも仲が良いのですな」

「ハハハ、バタバタしておりますが」


 侯爵の従者も呼んでもらい、解呪した。その従者も、侯爵が宰相時代の事はあまりはっきりとは覚えていなかった。侯爵よりは精神干渉も弱かった。それでも、覚えていないんだ。精神干渉は怖い。


「もしや、あの頃一緒に仕事をしていた者は全員ですかな?」

「その可能性が高いと思われます」


 侯爵は思いつく限りの人を教えてくれた。そして、紹介状を書こうと言ってくれた。それを持って訪ねると良いという事だ。

 侯爵が紹介してくれる貴族、官僚、そしてその従者達もそうだろう。数にして数十人。これ、全部訪ねて解呪すんのか? 超面倒じゃね?


「なら、お父様。うちで食事会でも開いて集まってもらっては如何でしょう?」


 オリヴィア嬢が良い提案をしてくれた。

 いいじゃん。それなら一気に解呪できるじゃん。な、霧島。


「おう、俺が付いとくけどな」


 頼んだぜ。


「では、またご連絡いたします」


 今日はここまでだろうな。後は、王女が目覚めてからだ。

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