第63話 独占で秘密厳守

 翌日、裏庭で工事が始まった。何の工事かと言うと、もちろんセリスアラーネアの飼育場の工事だ。以前話していた内容とは少し違う。現場の人間とロディ兄とで話し合って決めた。

 1階が繭を糸にして干したり収納しておく場所になる。水場と風通しの良い広い場所が必要と言う事もあって1階になった。

 そして2階に、セリスアラーネアの飼育場と餌の倉庫。3階が生地にしたり裁縫したりする作業場になる。

 現状、小屋がどんどん手狭になっている。飼育している小屋も、製作している小屋も両方だ。

 同時に、新しい人達が入ってきた。男女共に2人ずつ。取り敢えず、今はこれで何とかなりそうだ。

 男性陣は、ロウさんに。女性陣はミリーさんに頼んでおいた。

 正式に、2人が其々のリーダーになってもらう。既にその体制で自然と動いていたから大丈夫だ。


「お嬢さまぁ、奥様の普段着用のドレスを作りたいそうですぅ」

「え? ドレス?」

「はいぃ。普段着用ですよぅ」

「母さまが言ってるの?」

「いいえぇ、みんなですぅ」

「ほんとに? やる気ね?」

「はいぃ。どんどん上手になってますぅ」

「凄いじゃない。でも、母さまのドレスまで作っちゃうと、商売を奪ってしまうからダメだわ。だけど、メイド服位は作りたいわよね」

「はいぃ!」


 母の物だけは、生地を卸してオーダーする事にしようとロディ兄とも相談していた。でないと、いつも注文しているお店の経営に関わってしまう。何故なら母は1番の上客だからだ。そんな事をしたら、経済を回す事にならない。

 一応、皆には下着を配布できている。領主隊にも配り終えている。だから、もう状態異常は心配いらない。でも、それよりも着心地だ。

 状態異常無効だけを考えたら魔石の方が手っ取り早いのかも知れないのだが。セリスアラーネアの糸で作った布地はしなやかで丈夫だ。適度な伸縮性もあり、しっかり織れば防御力アップも期待できる。何より、着心地が良いんだ。

 うちのメイドさん達は、戦うメイドさんらしいからな。怪我しない様にしてほしいもんね。だから防御力アップを少しでもつけておきたい。下着よりもしっかり生地を織ったもので作るか。

 いや待て、母が言っていたな。


「でもサキ、先に殿下のホワイトシャツよ。パターンを起こしておくわ。メイド服はそれからだ」

「はいぃ、お嬢さまぁ」


 ほら、咲だってちょっと嬉しそうだ。

 それと同時進行でクリスティー先生から付与魔法を教えてもらう。これが、出来る様になったらうちの防御は完璧じゃね? いい感じだ。

 俺は午前中に鍛練をなんとかこなし、その後セリスアラーネアの作業場で色々やって、午後からは一般教養と魔法のお勉強。そんな毎日を過ごす様になっていた。

 みんな、もうコツを掴んだのだろう。俺が王子のシャツのパターンを起こしたら、それを応用して男性用と女性用のシャツやブラウスを作る様になっていた。

 ほんと、優秀だよ。王子のシャツも白だけでなく、淡いブルーでも作った。

 ドレスアップ用には、タックを丁寧にとったりフリルをふんだんに使ったりしてある。


「いい感じじゃない?」

「いいですよねぇ」

「母さまとロディ兄さまに見てもらうわ」


 と、いうことでロディ兄の執務室に来ている。


「ココちゃん、素敵じゃない。適度な張りもあるし、この艶はとっても上品で綺麗だわ」


 と、言っているのは母だ。王子のシャツを手に取りチェックしている。


「本当に、僕も欲しいよ」


 だよね、良い感じだよね。


「ココ、この程度の生地だと効果はどうなるのかな?」

「はい、兄さま」


 俺は説明した。普通のシャツ程度の生地だとアンダーウエアと同じ様に状態異常無効しかない。が、これが上着になると話が違ってくる。もっとしっかりと生地を織るからな。防御力アップの効果が付く。


「それも、段階があるみたいなんです」

「ココちゃん、段階なの?」

「はい、母さま。殿下が着られる様な普通のホワイトシャツだと防御力アップでも『小』だとします。上着や領主隊が着る様な隊服だと『中』です。コート等になると『大』て、感じです」

「まあ、そうなのね」

「それでも、凄いじゃないか」

「はい。ですから兄さま。前にドワーフの親方が言っていた様に……」

「ああ、そうだね。表に出す時は気を付けないとね」

「あら、そうなの?」


 セリスアラーネアの糸から作っているという事は極秘扱いにでもしないと。


「そうだね、乱獲されでもしたらね」

「まあ、嫌だわ」


 本当に母はポヤポヤしている。呑気だ。

 嫌だわ、てどうなの?


「ココちゃん、だって他所の貴族にはとられたくないわ」


 そりゃそうだ。うちの領地にしか生息しないセリスアラーネアだからな。多分、領地の気候や森の環境が影響しているのだろう。だから、もしも王都の貴族が捕獲したとしても、そのまま飼えるかどうかは不明だ。


「そうだね、多分無理だろうね。あの蜘蛛は繊細らしいから」

「え、兄さま。そうなのですか?」

「ああ。僕も調べたんだ。臆病で繊細らしいよ。で、主食になっているあの大きな葉もうちの領地にしかないらしいよ」


 なんだよ。どっちも独占じゃん。


「だから、気をつけないとね」

「本当だわ」


 なるほどね。ロディ兄はよく調べているなぁ。


「領主隊にあの葉を採ってくる様に指示したのは僕だからね」


 はい、ありがとう。俺はそこまで気が回らなかったよ。


「ココは前しか見ていないからね」

「ふふふ。本当ね」


 おや、なんか俺って猪突猛進みたいじゃん。まるで父みたいじゃね?


「ココちゃん、流石親子だわ」

「えぇー、母さま」

「アハハハ」


 いやだいやだ。笑われてしまったよ。俺、あんなに脳筋じゃないよ。

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