第62話 霧島は繊細だった?

 クリスティー先生が言うには、俺は魔力量が多いのだそうだ。まだ8歳だが、成人よりも多いらしい。

 その膨大な魔力量を俺は上手く制御できていない。だから、分かる人が見ると魔力がだだ漏れ状態なのだそうだ。

 しかし、この歳で魔法を使えるのもその膨大な魔力量のお陰だ。ロディ兄が以前言っていた様に、力業で魔法を発動させていた訳だ。

 クリスティー先生に魔力操作を教えてもらって必要最低限の魔力での発動を目指す。


「ココ様の魔力量は異常なのですよ。人なのにエルフ並みでっす」


 異常とか言われてしまったけど、本人はまったく自覚がないから分からない。


「ですから、しっかり魔力操作を覚えましょうね」

「はい、クリスティー先生」

「フィルくんはお上手ですよ。いい感じです。フィルくんの適性は……主に火と土ですね」


 ん? 主にとは?


「聖属性も少しあるみたいですよ。頑張れば軽いヒール位ならできるようになるでしょうね」

「そうなのですか!? 亡くなった母が聖属性魔法を使えたので、僕も使えたら嬉しいです」

「なるほど。属性は遺伝する場合が多いですからね。お母様からのプレゼントですねッ」


 そうなのか。それはちょっと嬉しいな。良い話だ。俺は両親両方からもらったらしいな。


「ココ様は普通ではありませんからね」


 また酷い言い草だ。


「魔力操作を覚えたら無敵ですよ。それこそドラゴンでも来ない限りはですけどねッ」

「クリスティー先生、やっぱりドラゴンは強いのですか?」

「はいッ。強いなんて言葉では足らない位にでっす。あれは、もはや天災レベルでっす。中でもエンシェントドラゴンはこの世のものとは思えませんねッ」


 ああ、やっぱそうなんだ。なのに霧島ったら。ちょっと可哀想だ。


「ああ、キリシマちゃんですか?」


 ちゃん!? キリシマちゃん!?


「彼の制限も半分くらいは解除できましたよ。充分に役に立つ事でしょう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「はいッ。たいした事ではありませんよ。私達エルフの手に掛かればちょちょいのちょいでっす。しかし、あれ以上は解除しない方が宜しいでしょう」

「先せ……」

「クリスティー先生でっす」

「はい、クリスティー先生。それはどうしてですか?」

「だって、天災は嫌でしょう? まだ死にたくありませんよね?」


 なるほど、確かに。なんせ、ちょ〜っと調子に乗って棲家を燃やしてしまった奴だからね。


「はいッ。ココ様、集中しましょう。目を瞑りましょうね〜。はい、吸ってぇ〜吐いてぇ〜。はい、また吸ってぇ〜吐いてぇ〜。自分の内側を感じるのでっす〜!」


 深呼吸じゃん! 瞑想なのか!? こんな感じで、ぬる〜い授業を受けていたんだが、そこは流石にクリスティー先生だ。授業が終わる頃には段違いで魔力操作が出来る様になっていた。素晴らしい!


「な、だから俺が言っただろ? 魔法ならエルフだよ」

 

 霧島が自分の顔ほどの大きさがあるクッキーを、両手で持ってサクサクと食べながら自慢気に言う。テーブルの上に足を投げ出してちょこんと座っている。これは良いのか? テーブルの上だぞ?


「確かに、流石エルフだったわ」

「だろ? ココの中の魔力が整ってきてるのは俺でも分かるぜ」

「キリシマにそんな事が分かるの?」

「ココ、俺を何だと思ってんだ?」

「小汚いとかげ」

「なんだよー! ドラゴンだって言ってんじゃんか!」

「冗談よ。分かってるわよ」

「ほら、俺もさ。エルフに制限を解除してもらっただろ。だから、分かる様になったんだよ」

「そうなの? 良かったわね」

「え? 本当にそう思ってる?」

「思ってるわよ。キリシマには殿下を守ってもらわなきゃならないんだから」

「おう、任せな。けどなぁ……」

「なに? どうかしたの?」

「いや、話して良いのかな?」

「何よ、じれったいわね」

「まぁ、ココなら良いか」


 と、躊躇いながらキリシマが教えてくれた。

 どうやら、王子はまだ夜中にうなされて起きる事がよくあるらしい。

 それだけ、心に傷を負っているのだろう。一体どれだけ我慢してきたのか。

 霧島が心配しているのは、それが原因で倒れたりしないかと言う事だ。

 

「人間は弱っちいからな。心が弱っていると身体も弱るだろう? 昼間は元気に笑っていても、あれだけ夜中にうなされているとな。ちょっと心配なんだよ」


 霧島って、優しいとこあるんだね。


「ココ、お前さぁ。俺を一体何だと思ってんだ?」


 また、それを聞くか?

 霧島は力の制限を少しでも解除してもらったからこそ気になるんだそうだ。

 それまでは、気付かなかった事も気付く。見えなかった事も見える様になった。だからだそうだ。


「何? 本当に限界っぽいの?」

「いや、そんな事はないと思うんだけどな。ただな……」


 このままだと、次に何か心に傷を負う様な事があった時に心配らしい。


「そんなになのね」

「そりゃそうだろう。唯一の味方だった実の母親が亡くなって、周りは敵だらけだったんだ。その上、迫害されていたんだろう?」

「そうね……」

 ちょっと、ロディ兄と母の耳にも入れておこうかな?


「うん、それがいいよ」

「そう。キリシマ、ありがとう」

「おうよ。守るって約束したからな」

「頼んだわよ」

「あたぼうよ!」


 意外と繊細な事に気がつくドラゴンだった。

 俺はその日のうちに、ロディ兄と母に報告しておいた。

 俺は前世で末っ子だった。今世もそうだ。それだけが理由ではないだろうが、家族には可愛がってもらっている。幸せな事なんだ。

 父とバルト兄はそろそろ王都に着いている頃だろう。王子の件はどうなったかなぁ?

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