第61話 クリスティー先生の魔法講座 魔力操作編

「色分けはルイソの功績です。基本の餌になる葉と、色を出す為の餌の種類と配合割合もちゃんとまとめてあります」


 ルイソとは、もう1人のセリスアラーネア担当の爺さんだ。

 肩まであるモッサモサのロマンスグレーの髪で、丸いメガネをかけている。ロウさんとは違って細身で華奢だ。白衣を着せたら研究者に見える。が、モッサモサの髪で目が隠れてしまっている。

 そのルイソ爺さんが、書類を見せてくれた。しっかり表にしてあって逐一記入し観察して纏めてある。

 PCのない世界だぜ。もちろん全部手書きだ。よくここまで纏めたもんだ。


「私はこういうのが好きなんですねぇ。野菜でも何でも、美味いもんを選んで増やしたり掛け合わせたりが堪らなく好きなんですねぇ」


 自分の事は無頓着なのか? 髪がとんでもなく、モッサモサなんだけど。

 しかし、この爺さんは学者肌だな。爺さんコンビ、侮るなかれ。


「お嬢さまぁ、ルイソさんはぁ領地の野菜や果物等の品質向上にも携わっている人ですぅ」

「そうなの?」

「はいぃ。領地の野菜が美味しいのはルイソさんのお陰なんですぅ」


 そりゃ凄いじゃないか! 本当に研究者なんだ。目が見えていないが、心なしかちょっぴり自慢気に見えるのは気のせいか?


「ルイソさん、どうやって野菜を改良したの?」

「美味しいものを残していっただけなのですねぇ。大した事ではありませんねぇ。根気があればだれにでも出来るのですねぇ」

「もしかして、美味しいもの同士を掛け合わせたりしたのかしら?」

「お嬢様、よくご存知ですねぇ。その通りですねぇ」


 天才じゃん! そんな手間の掛かることをこのPCのない時代に1個ずつデータをとって管理したって事だよな。俺には真似できないよ。

 そんな人物がどうしてまたセリスアラーネアに携わってくれているんだ?


「未知のものを知っていく過程がですねぇ、なんとも言えず楽しいのですねぇ。ゾクゾクするのですねぇ」


 お、おう。根っからの研究者肌って事だな。ちょっと個性的だけど。


「ねえ、領主隊の隊服の色は出せるの?」

「はい、もちろんですねぇ」

「お願い。それができたら領主隊の隊服の製作に取り掛かるわ」

「はいですねぇ」

「お任せください!」


 女性陣といい、この爺さん達といいこんな優秀な人達が埋もれていたなんて、勿体ない事だ。今回、働きに来てくれて良かったよ。


「ロディ兄さまに頼んで早急に人手を確保してもらうわ。もう少し待っていてくれないかしら?」

「大丈夫です。頑張りますよ」

「はい、とっても楽しいですからねぇ」


 俺は早速ロディ兄に頼んで人手を手配してもらう事にした。


「ココ、そっちは分かった。元々増員するつもりで動いていたからね。直ぐに手配できるだろうと思うよ」

「兄さま、お願いします」

「ああ。それはそうと、ココ」

「はい、何ですか?」

「今日から、クリスティー先生の授業だよ」


 あ、忘れてた……


「は、はい」

「忘れない様にね。最初はココと殿下だけなんだ。付与魔法の授業の時は僕も参加するよ」

「はい」

「ココ、忘れたらあの先生とっても怖いからね」

「え……」

「とっても怖いんだ。クリスティー先生」

「は、はい」


 そこまで怖いと思う様な事があったのか? そうは見えないけど。 

 さて、そのとっても怖いクリスティー先生の授業だ。


「こんにちはッ。やっとココ様に教える日がやって参りましたね」


 そうかよ。俺は知らないけどな。


「長かったですよ。思い返せばあれはココ様が何歳の時だったでしょう……」


 遠い目をしているぞ。なんだか長くなりそうな気がするな。


「先生、授業を」

「クリスティー先生でっす」

「はい。クリスティー先生」


 結果を言うと、このとっても怖いらしいクリスティー先生。怖いのはまだ知らないが、とっても教える事が上手かった。

 初日だったので、基本中の基本。魔力操作から教わったのだが。目から鱗だったね。

 俺の魔法が『力業』だと言われる意味がよく分かったよ。


「良いですか、身体の中にある魔力をしっかり意識するのです。それを手まで持っていきましょう。全部ではありませんよ。使用する魔法によって最適な魔力量というものがあります。それを、身体で覚えていきましょう」


 なるほど。身体の中にある魔力だな。あるのか? あるんだろうな。


「ココ様、真面目にやってください」


 え、俺超真面目にやってるよ。


「ほら、魔力が漏れ出てますよ」


 漏れ出てる……?


「そうでっす。ココ様はいつもだだ漏れでっす。大変な無駄でっす」


 なんだと……!? 俺自身はまったく意識していないよ?


「ふふふ」


 一緒に教わっている王子が笑っている。


「フィル君はお上手ですね。ちゃんと魔力が整っていますね」


 魔力が整う? ダメだ。チンプンカンプンだ。


「お嬢さまぁ、真剣にやってくださいぃ」


 やってるっての! 咲はできるのかよ?


「完璧ですぅ」

「はい、サキさんも出来ていますね」


 全然できる気がしねー……


「ココ様、もしかして自分の魔力を感じられませんか?」

「は、はい」


 感じるも何も、あるのかさえ分かっていない。


「いつもココ様が魔法を使われる時はどうしているのですか?」


 どうって……こう、むむむむむ! とだな。


「そうそう、そうでっす。そのままゆっくり身体の中で感じてみましょう」


 感じるだと? そんな事できる訳……ああ、あるな。あったわ、魔力が。俺の身体の中にもあるぞ。分かったよ。お腹の下辺りに温かいものがある。これが魔力なんだな。


「はい、お2人共お上手ですね。そのまま身体の隅々にまで行き渡らせる感じで動かしてみましょう」


 また、ムズイ事を……


「ああ、ココ様。また漏れてますね。フィル君はお上手ですよ」


 漏れてるとか言われても分かんねーし。


「なるほど。魔力量が多い事の弊害ですね」


 とうとう、弊害って言われちゃったよ。

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