第60話 増えてるじゃんッ!!

「お嬢様、お疲れ様です!」


 作業場に入っていくと、元気に声を掛けてくれた。1番若いナタリーさんだ。


「お疲れ様。どう?」

「はい。今は領主隊のアンダーウェア一式に取り掛かってます。皆、もう慣れたものですよ」


 と、報告してくれたのは年長さんで仕切ってくれている、ミリーさんだ。


「もう、領主隊の分に取り掛かっているの? 早いわね」

「はい。領主隊は1番危険な事をして下さってますから」


 と、言っているのは、色っぺーマニューさんだ。


「サイズを何パターンか決めてもらえたので早いですよ」


 とは、ミシン担当のルリアさんだ。

 ミシンは追加で2台入れてもらったから計3台ある。最初からミシンを担当していたルリアさんだけでなく、織機担当だったマニューさんや、パターン担当のナタリーさんもミシンを踏んでいる。


「私達は最初の方の工程ですから、ある程度出来上がったら縫う方に移動するんです」


 そりゃ、無駄がなくて良いんだけど。


「でも、みんな。あんまり根を詰めないでね。無理は駄目よ」

「お嬢さま、大丈夫ですよ。働ける事が楽しくって」

「ナタリーは若いから良いわよ。私はもう細かい作業だと見え難いわ」


 とは、1番年長さんのミリーさんだ。パターンにあわせて布地をカットする担当だ。


「ミリーさん、ゆっくりで良いわよ。自分のペースで良いんだから。本当に無理しないで。怪我にも気をつけてね」

「お嬢様、みんな領主隊に早く着てもらいたいんですよ」


 ああ、そうだな。気持ちは分かる。作業してくれている4人の、亡くなった旦那さん達も領主隊だった。魔物にやられたんだ。

 だから、役に立つのなら少しでも早くと思う気持ちもよく分かる。同じ様な被害者が出ないようにと、考えてくれているのだろう。


「また、人を増やしてもらえるのよ。そうなったらみんなには指導してもらうわ」

「そうなのですか?」

「ええ。ミリーさん、引き続きよろしくね。リーダー役は大変だろうけど」

「大丈夫ですよ。皆、同じ境遇なので気持ちも理解できますから」

「ありがとう」


 本当に優秀な人達だ。もう任せて安心だな。


「お嬢、セリスアラーネアの世話をしてくれている爺さん達が会いたいそうッス」

「そう? 分かった」


 セリスアラーネアの世話から糸の束にするまでを担当してくれている年配の男性が2人いる。

 今の俺から見ればもう爺さんと呼んでもおかしくない歳だ、2人共、60代後半だ。

 隆に言われて会いに向かう。少し前から作業場が手狭になった為、セリスアラーネアを別の場所へと移動させていてそっちでずっと世話をしてくれている。


「お嬢様、態々申し訳ないです」

「気にしないで。どう? 順調かしら?」

「それが、困った事になっとりまして……」


 と、対応してくれているのが、ロウさんというお爺さんで元領主隊だ。現役の頃は俺の祖父さんである前辺境伯を支えた人らしい。

 白髪混じりの長い金髪を後ろで1つに結んでいる。御年68歳。爺さんだからといって油断してはいけない。

 まだまだ鍛え上げた筋肉は衰えていない。爺さんなのに、マッチョだ。筋骨隆々なんだ。

 未だに俺達と一緒に毎日鍛練をする爺さん。しかも、俺みたいに息が上がったりしない。俺、負けてるよぉ。

 そのロウ爺さんに案内されて、セリスアラーネアの育成場にしている小屋の中を見て俺はびっくりした。

 ちょっと小屋に入るの躊躇ったもんね。入口で思わず立ち止まっちゃったよ。マジ、びっくりしたんだ。思わず声を上げてしまったからな。


「ふ、ふ、増えてるじゃんッ!!」

「まぁ!」

「ね、ビックリするッスよね」


 マジ、驚いたよ。増えていたんだ。あのデカイ蜘蛛が。セリスアラーネアが。

 確か20匹だったよな? それが目の前には繭になっているのが20個近くあり、ムッシャムッシャと葉っぱを食べているのも十数匹。

 最初の頃の倍とは言わないが、とにかく増えている。なんでだ? いつからだ? どうしてこうなった!?


「どうも、張り切っちゃったみたいッス。領主隊が……」

「どうして張り切るの?」

「旦那様が大きな声で自慢するからッスよ。着心地が良いぞ~、状態異常無効だぞ~、ココが作ってくれたんだぞ~って、そりゃ、欲しくなりますって」


 なるほど〜。最後がちょっと引っ掛かったけど。

 それで領主隊がまた森で捕獲してきた訳だな。だが、これだと困るだろう。たった2人だと手が回らないだろうに。


「餌は良いのです。領主隊がついでに採ってきてくれます。しかし、繭を作り出したらこっちの手が足りやしません」

「当然だわ。ロディ兄さまに早く人を雇ってもらうわね」

「そうして下さると助かります」


 これは早く手配しないと。だが、凄いのはセリスアラーネアの数だけじゃなかった。しっかり1匹ずつ仕切りでマス目に分けて餌を与えている。餌の内容を変えているんだ。

 できた繭を見るとナチュラルな白だけでなく、ロディ兄の黒、母に使ったピンク、そして黄色や緑、青もある。

 どれだけ色分けしてるんだ? こんなにできているなんて想像もしなかった。

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