第59話 領地の産業

 結局、霧島は夜まで戻って来なかった。しかも、何故か超ハイテンションで戻って来た。


「いやぁ〜! やっぱ分かる人は分かるんだよ! 俺様の素晴らしさがなッ! ワハハハ!」


 などと、言っていた。一体、何をしていたんだ?


「また、制限を解除してくれたんだ。やっぱエルフってスゲーな!」

 

 なるほどね。だから、ご機嫌なわけだ。


「元の力には到底及ばないけどさ、でもこれで自信を持って王子を守ってやれるぜ!」

「キリシマ、夕食食べたの?」

「おう! スッゲーもてなしてくれたんだ!」


 そうかよ。良かったな。

 翌日、早速また解除してもらった霧島の力を見せてもらった。


「どうよッ!」


 と、小さな胸を張る霧島。


「うん、凄いわ」

「だろ? だろうよ!」


 本当に、格段に力が上がっていた。

今迄はフワリフワリとしか飛べなかったのに、まるで弾丸の様に早く飛ぶ。

 その上、驚いたのが瞬間移動だ。瞬時にあっちからこっちへと移動する。しかも移動距離も、裏庭にある広い訓練場の端から端まで余裕だった。きっと、まだまだ移動できるんだろうな。

 ドラゴンブレス擬きも、レベルアップしていた。どう見てもファイアボール程度だったものが、霧島の口からカッと炎の柱が出たんだ。


「ココと王子位だったら連れて一緒に瞬間移動できるぜ!」

「凄いじゃない!」


 やってみたいぞぉ!


「お嬢さまぁ、ダメですよぅ」


 あ、はい。ちぇッ、瞬間移動なんて体験できねーじゃん。やってみたいじゃん。


「体調も段違いに良くなったんだぜ! 俺様超元気だ!」


 それは良かったよ。朝からテンション高いな。今までだって元気だったじゃないか。


「俺よく寝ていただろう? なんだかさぁ、1日中眠くてウトウトしてたんだよ。それが、今はないんだ!」


 ウトウトなんてレベルじゃなかったぞ。腹出して爆睡してたじゃん。


「お嬢! 鍛練が始まりますよ!」


 あ、隆が呼んでる。脳筋のリーダー、父がいなくても日々の鍛練はあるんだよ。もう、みんな整列してるし。


「キリシマ、殿下と一緒にいてね」

「おう! 分かってるぜ!」


 王子は別メニューだ。最近、歩くだけでなくストレッチもする様になった。

 で、父がいない間のリーダー(仮)はと言うと……


「旦那様がいないからと言って呆けていてはいかぁぁんッ!」

 ――おぉー!!

 ――はぁ〜い!!


 奴だよ、奴。領主隊隊長のルーク・スカイラン隊長だ。父と兄がいない間は、領地を任せるとか言われちゃって張り切っているよ。


「お嬢様ッ! 遅れてますぞぉぉ!」


 はいはい。すまないね。俺まだ8歳なんだけどさ。知ってるかな?


「気を引き締めろぉー!」

 ――おおー!

 ――はぁ〜い!


「一意専心!!」

 ――おおー!!

 ――はぁ〜い!!


 そして、俺はまるで過呼吸を起こしたかの様に息が切れている。肩で息をするとはこの事だね。はぁ、今日も頑張った。


「お嬢さまぁ、飲み物ですぅ」

「ハァ……ハァ……サキ、ありがとう」


 スポドリ擬きが身体に染み渡るぜぃ。


「お嬢さまぁ、今日からいつものお勉強がない日は魔法のお勉強になりますぅ」

「分かったわ」


 早速、魔法の勉強が入ったのか。クリスティー先生が張り切っていたからな。それにしても、俺の自由な時間がないな。


「サキ、作業場に行くわ」

「はいぃ」


 午後から勉強がビッシリ入ってしまった。作業場に行く時間が取れない。


「もう、アンダーウェア関係は大丈夫ですぅ。進めてくれてますぅ」

「そうね。そろそろレベルアップしたいのよ」

「レベルアップですかぁ?」

「そう。先ずは殿下のホワイトシャツよね。普段着用とドレスアップ用を作りたいわ。母さまのドレスに使う生地も作りたいのよ」

「ドレス用は取り敢えず生地だけですかぁ?」

「そう。いつも頼んでいるドレスデザイナーの婦人がいるじゃない。そこで使ってもらおうと思うんだ。母さまの発注を無くすのは良くないでしょう?」

「そうですねぇ。奥様の発注が無くなったら死活問題ですよねぇ」

「ね、それは駄目。領内で回さないと」

「はいですぅ」


 領地の産業や発展を考えたら、何もかも俺が手を出す事は良くない。仕事を取り上げる事になってしまう。そうなると、お金が回らない。それは駄目だ。良い物が出来たとしても、領地全体の発展には繋がらない。

 このセレスアラーネアに関係する事もそうだ。どこからか部分的にでも、領民が商売として始めてくれたら良いのにな。と、思うんだ。


「領地の産業にするんですよねぇ?」

「そうそう。元々特産品にしようと思っていたから」

「ロディ様が何て言うでしょうぅ?」

「代わりに魔石に付与する仕事があるわよ」

「あぁ、なぁ〜るぅ」

「ね、付与するのは領民には無理でしょう?」

「そうですねぇ。誰もがお嬢さまみたいに魔力量が多い訳じゃありませんからぁ」


 咲の言う通りだ。偶々、俺や母にロディ兄は魔力量が多い。だから、魔石に付与する事もできるのだそうだ。

 その場限りで、剣に魔法属性を付与する事は意外にも領主隊ではメジャーらしい。

 だが剣に属性を短時間付与する事と、魔石に効果を付与する事では必要な魔力量が違うそうなんだ。

 だから、魔石に付与する事は領民の仕事にはできない。ならば、セレスアラーネア関係の一部を商売としてやってもらっても良いかと俺は考えたんだ。

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