第58話 クリスティー先生と霧島

「えっと、最近なんです。偶然保護したんです」

「ドラゴンを偶然に保護ですか?」

「はい、偶然です」

「そんな偶然があるのですか? よく生きていましたね?」


 だろ? そう思うだろ? そんな偶然があったんだよ。きっとクリスティー先生が思い描いているのは、あの巨大なドラゴンだろう。ぷぷぷ、違うんだよなぁ。

 霧島を見たらどんな反応をするだろう?


「先……」

「クリスティー先生でっす」

「はい。クリスティー先生、見てみますか?」

「見るとは?」


 俺は、咲に目配せをした。咲はピューっと走って行ったよ。よく、分かっている。


「加護を授けてくれたドラゴンをです」

「見られるのですか!?」


 ぐいぐい食い付いてきちゃったよ。


「はい、サキが連れて来てくれますよ」

「ふふふ」


 王子がもう笑っている。


「それは! 楽しみでっす!」


 そうこうしていると、廊下が騒がしくなった。どんどん近付いてきているのが分かる。


「待てって! 俺昼寝中だったんだって!」


 と、聞こえている。ああ、また寝ていたのか。


「あははは」


 王子が堪えきれずに笑っている。よく笑うようになったよ。


 ――コンコン


「失礼しますぅ。連れてきましたぁ」


 そう言いながら、霧島の翼の下をガシッと両手で掴んでいる咲。その持ち方はどうだろう?


「え……?」

「なんだよ! 離せってば!」


 霧島がもがいている。


「サキ、いいわよ。キリシマ、ちょっとこっち来てちょうだい」

「ココ、俺サボってねーぞ!」


 と、訴えながらフワリフワリと飛んでくる。いや、王子がここにいるのに寝ていたんだろう? それはどうなんだよ?


「だって、ココやロディが一緒なら大丈夫じゃんか!」


 そんな問題じゃないな。ま、とりあえず……


「クリスティー先生。そのドラゴンです」


 と、俺が紹介すると、クリスティー先生は俺の肩を持って目を見つめて言った。イケメンエルフのドアップだぜ。


「……ココ様、良いですか? これはドラゴンではなく、トカゲと言うのですよ」


 ちょっと、顔が近いって。また、トカゲって言われちゃったよ! アハハハ!


「クリスティー先生、鑑定眼で見て下さい」

「そうですか?」


 と、言いながらジィ〜ッと霧島を見る。


「……ま、まあ! 本当にドラゴン! しかも、エンシェントドラゴン!」

「……ですよ」

「なんだよ! 俺は歴としたエンシェントドラゴンだぞ!」


 腰に手をやり胸を張る霧島。相変わらず偉そうだ。


「どうしてこんなに小さく……? おや? 制限ですか?」


 そこまで見られるんだね。流石だ。

 俺は霧島が小さくなった経緯を話した。


「おやまあ。それはいけません。棲家を燃やしては叱られても仕方ないですね。しかし、エンシェントドラゴンにしては色も斑ですね。珍しいでっす」

「元はカッコいいシルバーだったんだって! 小さくされたらこんな色になっちまったんだ!」

「ほう。珍しい。私はドラゴンが好きで長年色々研究してきましたが、こんな事は初めてでっす!」


 ほうほう、ドラゴンを研究ね。


「良い研究対象ですね〜」


 と、言いながら霧島ににじり寄るイケメンエルフのクリスティー先生。目がキラランと光っている。


「ココ! ココ! このエルフ何なんだ!?」

「ドラゴンさん、お名前は?」

「お、俺はキリシマだ」


 ドラゴンなのに、逃げ腰だ。屁っ放り腰だよ。


「キリシマくん、確かに私はエルフですがそうではなく、私はクリスティー先生ですよ」

「お、おう」

「はい、呼んでみてください」

「ク、クリスティー先生」

「はい、よくできましたね」

「ココ、何なんだ?」

「殿下とあたしの魔法の先生よ」

「そ、そうかよ。じゃ、俺は関係ねーな」


 そう言ってフワリと飛んで行こうとする。そこをまたガシッと捕まえられた。翼の下を、またまた両手で……クリスティー先生にだ。


「おや、どこに行くのですか? まさか、ドラゴンと話せる時が来るなんて! 長生きしてみるものですね! もっとよぅ〜く見せてください!」

「え、え? 遠慮しまっす?」


 アハハハ! いつもの勢いがまったくないじゃん。


「ココ……た、助けて……」

「おや、まだ何もしていませんよぉ?」

「クリスティー先生、食いつき過ぎです」

「ロディ様、仕方ありませんよ。こんなに珍しいケースは聞いた事がありませんからね。取り敢えず、ちょっとスケッチさせてください」

「え、ええー……」

「おや? 制限が少し解除されていますか? もしや、ココ様ですか?」


 凄いじゃん。そんな事まで分かるのか?


「いえ、そんな無茶をしそうなのはココ様位ですから」


 あれ? よくお分かりで?


「アハハハ、クリスティー先生。ココと僕とで解除しました。でも、少ししかできなかったのですよ」

「ロディ様、出来る方がおかしいのですよ。ドラゴンの力を解除するなんて、人は普通できません」


 え、そうなのか? でも、やっちゃったよ?


「お2人は魔力量が多いので出来たのでしょうね。そうですね、私ならもう少し解除できますよ」

「え? そうなのか!?」

「はい。しますか?」

「頼む! 頼むよ!」

「はい、では……リミットブレイク」


 と、とっても良い笑顔のクリスティー先生が軽い感じで言いながら、パチンと指を鳴らした。

 すると、霧島の身体が白く光りパキーンと音がした。エルフって、やっぱ凄いんだな。魔力量が桁違いなんだろう。


「お、おお! スゲー! 力が溢れてくるぞぉ! 流石エルフだな!」

「エルフではなく……」

「クリスティー先生! 恩に着るよ! ありがとう!」

「いえ、これ位構いませんよ。で、観察させてもらえますか?」

「おう! 煮るなり焼くなり何でもやってくれ!」


 ああ、また調子の良い事を言ってるよ。


「ではッ、少しお借りしますねッ!」


 と、クリスティー先生は霧島を連れて出て行った。


「アハハハ」

「兄さま、良いのですか?」

「別に良いんじゃない?」

「クリスティー先生って個性的ですね」

「アハハハ」


 王子は笑ってばっかだな。もう、ツボに入ってしまったか? 涙を流しているぞ。

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