第11話 魔法
「ほら、お前さんはまだ寝てな。
しばらくは無理に体を動かさないように。」
女はそう言うと僕に近づき、体を支えながら寝かせてくれた。
髪からフワッと懐かしいような花の香りがした。
「いくつか聞きたい事があるが、まずは今後について話していこうか。
完全に全身の痛みと倦怠感が取れたら本格的な治療を行う。
左手に時間をかけて縫合魔法を使う。
時間はかかるが、完全に元に戻るだろうから安心しな。」
あの丘の女の言った通り魔法があるのか。
魔法を左手にかけて治すと言ったけど、痛くないかな。痛くないといいな。
「痛くないといいな。」
「痛いに決まってるだろ?
お前さんの左手は今、応急処置の為に焼いて止血をした。
縫合魔法はその名の通り縫合だ。骨、筋肉、血管、神経を繋ぐ。
繋ぐ為には一度焼いた場所の傷を開く。そこでまず激痛だ。
そして徐々に千切れた左手と繋いで行く。生の神経や筋肉を魔法で触れるのだぞ?更に激痛だ。」
「え。」
僕はてっきり友達がやっていたゲームのように直ぐに治る物だと思っていた。
山で拾った漫画でも怪我は魔法で一瞬にして治っていた。
想像しただけで気分が悪くなってきたのが分かる。
「そう暗い顔をするなお前さん。
ある程度痛みが抜けるのに何日かかかる。その間に決めておけ。
どうするかお前さんの自由だよ。」
自由か…僕はこの世界に来てやっと自由になれたんだ。
少し考えてみるのも良いのかも。
「分かりました。」
「後はお前さんから聞きたいことはあるか?
まぁ状況が状況だ、今は混乱しているだろう。
答えられる範囲なら何でも答えてやるから、言ってみな。」
そうだ、大切な事を忘れていた。
「あの、トイレに行きたくなったらどうすれば?」
「あぁ…そうか。動けないのだったな。
よし、漏らせ。垂れ流せ。
毎朝、魔法で綺麗にしてやる。」
嘘だよね?僕は物心がついてから漏らした事が殆ど無い。
意図的に小も大も漏らすなんて恥ずかしすぎておかしくなりそうだ。
「ハハハ、子供の寝ション便くらい可愛い物だ。
この世の終わりみたいな顔をして、お前さんはここ二日丸々寝ていたのだぞ?
その二日間の間に盛大に漏らしていたぞ。
だから今さらだろ。」
そんな、嘘でしょ。
でもそれだとおかしい、シーツも掛け布団も綺麗なままだし僕自身も臭くない。
僕は疑った目で女を見た。
「疑っているのか、ならこうしよう。」
女は近くにあった木製の花瓶から花を抜き、
掛け布団を捲り、花瓶を僕の股関の上に持ってきて逆さまにした。
「冷たっ。」
いきなりの事でビックリした。
花瓶の水が降ってき、僕の股関を中心に水溜まりが出来る。やがて、シーツに吸収された。
女はそれを確認すると、右手を僕に向けた。
すると、女の手から光が溢れ、その光は僕とベッド全体を包んだ。
光が消えると、僕の股関から気持ち悪い感覚が無くなっていた。
シーツも綺麗になっており、僕はかなりビックリして女に顔を向けた。
「な?」
女は両手を腰にあて、はにかみながらそう言った。
アサの花 ズッ根バッ魂 @kh721
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