第10話 挨拶

 ん?ここはどこだろう、何故か頭がふわふわする。

そうだ、確か狼に襲われてたんだ。

あの女はホワイトウルフって言ってたっけ。


 この世界に来て早々酷い目にあったな。

僕は懐かしいような、優しいような花の香りに包まれながら意識を覚醒した。


 上半身を起こそうとするが、上手く起こせない。全身に電流が流れるように痛い。

そこで僕は違和感に気づいた。やっぱり夢じゃ無かったのか。左手が無い。


 何とか体を起こし周囲を見渡した。

僕は柔らかなベッドの上に居た、ベッドの周りには腰位の高さの棚に乗った大量の植物や花が木製の花瓶に生けてあった。

色とりどりで鮮やかであった、香りも心地好く自然と笑みが出た。


 上に目を向けると、天井はやや高く所々蔦が張っていた。蔦の一部にはカラフルな花が咲いておりうっすら光を放っていた。


 横に目を向けると、人の手のひらサイズの丸太を重ねたような作りになっており、こちらも天井と同じ蔦が這っていた。

窓が一ヶ所あり、ここからだと景色は覗けない。

扉もあるが、まだ動けないのでこの先は分からない。


 次に下に目を向ける。床にはベッドの下にフカフカの芝生のようなカーペットが扇状に広がっていた。

カーペットの正面には僕の靴が置いてあった。

あんだけ森を駆け回ったのに靴は何故か綺麗になっていた。


 更に下に目線を下げると僕は驚いた。

何も身に付けて居ない。きっとあの女が脱がしたのだろう。

体を確認すると細かい傷が消えていた。左肩はケロイド状になってやや赤みがかっていた。


 体を一通り確認すると僕はきっと助けられ、きっとここは女の家なのではと考えた。


 思いに更けているとドアがキーっと音を鳴らし開いた。


「おや、起きたか、おはよう。

いや、今はもうこんにちはか。

おいまだ動くなよ傷は治ったといってもダメージは抜けてないからな。」


 女が部屋に入ってきた。近くで見るとやはり綺麗な人だ。

はち切れんばかりの白シャツはボタンを3つほど外しており、黒のスリット入りのスカートからはすらっとした脚が見える。

帽子とマントは着ていない、着ていないからこそ体のラインが良く分かる。


「何じろじろ見ている。

ほれ、挨拶を返しな。こんにちはだ。

挨拶をされたら挨拶を返せ、当たり前の事だろう。」


 僕は今まで殆ど誰からも挨拶をされたことが無かったので反射的に挨拶を返すという当たり前の事が出来なかった。


「ごめんなさい、えっと、こんにちは。」


「うん、よろしい。」


 女ははにかみながら言った。

初めて人と挨拶をした気がした、当たり前の事がこんなに気持ちいいとは。

僕はとても嬉しい気持ちになった。

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