第9話 取引
「なぁ、お前さん助けてやる代わりに私の言うことを何でも聞いてくれないか?難しい事は言わない。
そうだな、私はこの森で一人で住んでいる。
何分一人だと色々不便でな、お前さんに色々手伝って欲しい事がある。
いわゆるお手伝いさんになって欲しい。」
女が森で一人暮らしって何か訳があるのだろうか、それにお手伝いさんか。
僕はある程度なら家事が出来る。
掃除に選択、炊事…って、あぁ駄目だ目が霞んで頭がぼーっとしてきた。
もう迷っている暇は無いみたい。
死ぬよりはよっぽどましだ、その持ちかけに応えるしかないみたいだ。
「ナンデモシマス、ダズゲデグダザィ…」
「なんでもねぇ、ふふふ。
いいねぇ、いいわ!なら助けてあげようではないか!」
助けてくれるのか、良かった。
安堵したのか僕は急に糸が切れた人形のように倒れた。
霞んでいく視界の端で僕が見た最後の光景は、口元を吊り上げ笑う女の顔だった。
・・・・・・
さて、この小僧の言質は取った。
なら早くこのホワイトウルフ共を葬るか。
「ロックバレット」
女が右手を降り下げると拳台の岩が雨のように降り注ぐ。
少年を避けるように右手を中心に傘状に岩が激しい土煙を上げてホワイトウルフを襲う。
やがて土煙が晴れるとそこにはホワイトウルフの屍が溢れていた。
生きている者は一頭もいない。そのことを確認すると女は地面へとゆっくり降下し少年の直ぐ真横に着地した。
「なぁお前さん、何で年端もいかない子供が一人でこんな森にいるんだい?
それになんだこの濃厚な魔力は、殺してくれと魔物に言っているような物だぞ。
はぁ、変な拾い物をしたな。
しかも面倒くさそうな子供だ、いつかアイツに相談しよう。」
女は少年に向かい深いタメ息を吐いた。
少年の応急処置をする為しゃがみこみ、左肩を覗き込む。
一目見てこの出血はまずいと思い、処置にあたる。
まずは止血だ。女は傷口に手を当て魔法を使う。
少年からしたら意識が無くて良かったのかもしれない。
女は傷口を高温の炎で焼いた。辺りには肉が焼ける匂いが瞬間的に漂う。
「お前さん、寝てて良かったな。
まぁ意識があっても直ぐに意識を飛ばすんだがな、ハハハ。
おっと、この匂いに釣られて別のホワイトウルフも来るかもしれないな。」
女は立ち上がり、右手を上にかざし魔法を使う。
数秒だけ女と少年を中心に豪風が舞う。
「これでいいね。
それと少年の左腕は…あったあった。」
女は少年の左腕を見つけ、そこに向かう。
躊躇無く拾い上げると再び魔法を使い、左腕を球状の水で囲う。
それを自分の頭上に浮かせ、再び少年の方へ戻る。
女は少年を抱っこするように抱え、ふわりと浮き上がる。
「軽いね。しかも良く見れば全身に古い傷も多い。
お前さんまだ子供だろうに、一体どんな業を背負っているんだい。」
そう呟き、女は高度を上げ森の奥に消えた。
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