第8話 颯爽

 何がどうしてこうなった。

いや、もうそれどころじゃない。

歯を食いしばらなければ、耐え難い痛みだ。

考えるの辞めて必死に歯を食いしばった。


 まだ狼達が周りを囲んで居る。

だが、中々襲って来ない。獲物を弱らせていたぶっているのだろうか。中々質が悪い。


 あぁ、意識が朦朧としてきた。


「お前さん、バカだねぇ。

発情期のホワイトウルフの縄張りに入るなんて。死にたいのか?」


 声?女の声だ、少し低い声に小馬鹿にしたような感じだ。

死にたいのか?だって、僕は死にたくないに決まっている。


「し…に、だぐなぁ…い」


「アハハハ、あー面白い。左手無いじゃないか。

もう意識も朦朧として、血を流しすぎだ。

あと持って数分ってところだろうな。」


 何が面白いんだ、この女は。

怒りとやるせなさが込み上げてきて、一睨みしようと顔上げる。


 僕は驚いた。まず女は浮いている木々と同じ高さで足場も無いのにどうやって。


 よく見ると何て綺麗な人なんだろう。

月が逆光になって分かりにくいが、短く切り揃えたブロンド髪恐らくベリーショート位、こちらを見下す目はやや吊り目で引き込まれそうになるような綺麗な青目。

黒いつばが広い帽子の先端は折れ曲がっており、黒いマントを羽織っている。中は白いシャツに収まりきれないほどの実を宿している。

黒いロングスカートにはスリットがあり、そこからは月の光にも負けないような色白い脚が見える。


 僕は数秒見とれてしまった。

父が連れてくどの女よりも美しく、品がある。

言葉にはトゲがあるが、総じて嫌な感じがあまりしない。


 この女は誰なんだろう。

一睨みする為に上げた顔は呆けていた。


「なんて面だ。ぐちゃぐちゃじゃないか。

お前さん、死にたくないって言ったよな?

助けてやろうか?」


 助けて欲しい。物凄く助けて欲しい。

だが僕は誰かに助けをお願いしたことなんてない。

助けを求めたところでこの女は助けてくれるのだろうか。


 女はそんな僕の疑問を読み取ったのか、とある提案をしてきた。


「その顔疑っているな?はぁ~…死ぬか生きるかの瀬戸際に何なんだお前さんは。

素直に助けて下さいって言えばいいものを。

よし、なら取引だ。」

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