第5話 名前

「せっかくだし選んでみるか?本来なら我が直ぐに決めるのだが、お前は優柔不断だからな。

よし、シャンヴルとヴォリュビリィスどっちが良い?」


 優柔不断だからな、って確かにそうだけどそこまではっきり言わなくても良いんじゃないかな。

でも選べるなら選んでみたいな。


 シャンヴルとヴォリュビリィスか…

どっちも外国の人みたいな名前だ。

うーん。どっちも何かカッコいいような?

どうしようかな。


 何故かシャンヴルはちょっと嫌な響きに感じる。

ヴォリュビリィスは長いけど優しい響きに感じるな。

意味何て考えても仕方ないし、考えるだけ無駄なのかな。


 よし、決めた。


「決めました、ヴォリュビリィスでお願いします。」


 やっぱり自分の意思を伝えるのはドキドキする。

だけど、この人相手なら何故か嫌なドキドキはしないから不思議だ。


「よかろう。ヴォリュビリィスだな。

ヴォリュビリィスだと我が決めといて言うのも何だが発音しにくいな。

ビリィスにしよ。うんそうしよう。」


 ビリィスか、良い名前だな。

ビリィスか。ビリィス…ビリィス…ビリィス…。

何か新しい自分になれた気がするような感じだ。


「ビリィス。それではお前を別の世界に送る。

最後に何もなければ、このまま送るぞ。」


「あの!あ、あ、あ」


「なんだ?」


「あ、あ…」


「良い。何となく分かる。我を誰だと思っている?

その言葉を次はちゃんと誰かに言えるようになりな。」


 僕はこの人にありがとうと言いたかった。

でも、ありがとうと言うのにはごめんなさい以上の勇気が必要だと思った。

いつもは直ぐにごめんなさいが言える。

むしろ言えないと酷いことになっていた。


 この人は暖かみを感じる不思議な人で、少しずつ歩んで行けば良いと言ってくれた。新しい名前も一緒に選んでくれた。

もうこの人に会えないと思うと少し悲しい。


 でも、この人に心配をかけたくないとも思っている。

だから僕は精一杯自分なりにまっすぐ見据えて答えた。


「分かりました。」


「ふふ、それではビリィスお前の新たな人生に祝福を!」


 言い終わったと同時に眩しい光が襲ってきた。

怖くて目を閉じてしまった。

あれ?痛くない、むしろ暖かい。心が軽やかになる。

あぁ僕は生まれ変わるのか。

新しい世界ではもう少し頑張ってみよう。




・・・・・


(無事行ったか、しかし情けない奴だったな。

ビリィスの奴大丈夫だろうか、まぁ我は何も出来ないんだが。

ビリィス、ビリィスねぇ。

シャンヴルとヴォリュビリィスは確かビリィスの世界の言葉だと、麻の花がシャンヴル。朝の花アサガオがヴォリュビリィスだったな。

良かったな朝の花で。

ビリィス、お前の心に朝が来ることを…)


 そう呟くと、辺り一面麻だらけの丘を色とりどりのアサガオに変え覆い尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る