第3話 選択

 お前はどうしたい?か。

僕はどうしたいのだろうか、今まで何かを決める時は周りの顔色を伺ってきた。

なるべく波風を立てないようにひっそり生きてきたから直ぐには答えられない。


 俯いていつぶりか分からない選択を与えられ、しばらく悩んでいた。


「そんなに悩むことか、ここからはお前の人生になるんだぞ?誰もお前が決めたことに誰も口を出さない。

だから好きに、後悔しない方を選べ。」


 好きにと後悔しない方とは何が違うのか。

後悔なら分かる。

夜な夜な家を空ける母が蒼白い顔をして朝方帰ってきた時に、おかえりと言えなかった事

学校で数少ない食事の中で唯一楽しみの給食を食べて、胃が驚き吐いてしまった事。

父が連れ込んだ女の一人に助けてと言われても何も出来ず、気づいたらボロボロになっていたこと。


 様々な後悔を思い出すと胃が締め付けられるほどに痛くなった。

吐き気もあるが、ほとんど食べていないので吐けない。喉元に酸味が登ってくる嫌な感じだけがある。


「また随分と考えているな。そんなに難しいか?」


 難しいに決まっている。

後悔は嫌なほどしているが、好きに選べって何だろうな。

少年は顔を上げて好きなものを考えてみる。


 母の優しかった笑顔。

何も出来ずにすまんと言い、給食でおかずを分けてくれる先生。

父の連れ込んだ女が内緒でくれたチョコレート。


あぁ僕にも好きなものがあるじゃないか。


 そうか、また何かをしたい、して欲しいって思うのが好きなもので、

もうやりたくないって思うのが後悔なのか。


 なら僕は…僕は…

せめて新しい世界で自分の好きを集めて生活がしてみたい。

せめて新しい世界で後悔しないように生活がしてみたい。

せめて新しい世界で…せめて…せめて…


「決めたよ、僕は新しい世界に行ってみたい」


「よかろう、お前の新たな人生に祝福を」


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