第2話 邂逅

「ずいぶんとアホ面晒して呑気な物だ。」


 目の前からしゃがれた女の声が聞こえてくる。

しかし姿が見えない。

不思議な感じだそこに居るのに居ない。


「眉一つ動かさないとは、やはりあの男の教育のせいか?」


 不思議な物は不思議だが、この人からは父のよつな嫌な感じがしない。

むしろ暖みを感じる。


 女の問いの意味が分からず、黙っているとまた語りかけてきた。


「まぁいい、この場所は死後の世界なんだがお前の生前の楽しかった記憶の風景を元に作られてる。

しかし何だこの風景は?お前この植物が蔓延る丘を何で選んだ?」


 やはり死後の世界なのか、それはそうと楽しかった記憶か。


 まだ母が生きていた頃、父方の祖父母が所有する裏山に家族全員で遊びに行った景色だったはず。


 父はここは宝の山だ直ぐにこの貧相な生活から脱出出来るとギザギザの草を片手に笑っていた。

母は、そんな父を悲しい目で見ていたが僕を見ると優しい目で頭を撫でてくれた。


 それから数ヶ月後、父は何故か攻撃的になり、母は一言も話さない日が続いた。

更に数ヶ月後、父は突然失踪し、母はみるみる痩せていった。

夜な夜な痩けた頬を隠す用に化粧をし寒いのに薄手の格好で出掛け、朝帰りをする日々が続いた。


更に数ヶ月後、母は糸が切れたように倒れ亡くなった。

父は母が残した財産を取りに家に戻ってきた。

それから僕の地獄は加速した。


 あの裏山の丘が僕の人生のピークだったのかもしれない。

だから楽しかった記憶がこの丘なのかと考えた。


「まぁ良い。

我は生前不幸だった者、不幸な死に方をした者の中から特に酷い者を別の世界に送り、新たな人生を送れるように手助けする役目をしている。

さて、お前はどうしたい?」




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