アサの花
ズッ根バッ魂
第1話 追悼
起きた時には身体が軽かった。
久しぶりに良く眠れたのだろう。
頭がスッキリし、辺りを見渡すと丘の上にいた。
一面ギザギザの葉っぱが生い茂っており、独特な香りがする。
春のような日差しで、暖かい陽気が心地好い。
暫く堪能するとなぜこの場所にいるのか、目覚める前の記憶を探ってみることにした。
・・・・・
「おい、クソガキ何見てんだ?」
父が知らない女性に跨がり腰を動かしていた。
お互い何も身に付けず息を荒げていた。
女は声にならない声で恐らく父の名前を呼んでいるのだろう。
またか、と思い僕は襖を閉め家を出た。
いつも2~3時間位外で時間を潰して戻ると、女は居なくなっている。
その日は大雪なうえに気温もいつもより低くなっていた。
いつもは自宅の裏山で一人で探索したり、拾った物で作った、子供一人入れるかどうかの小屋の中に居たりしていた。
しかし、いつもより寒く、身体中の感覚が無くなる早さが速かったのでいつもより早く家に戻った。
「何戻って来てんだ?」
僕が家に帰ると父は上半身裸に咥えタバコ姿で胡座をかいていた。
横には裸の女性が仰向けで寝ていた。
初めて見る母以外の裸に思わず観察するようにじっと見てしまった。
目を向けると左腕の数ヶ所に赤黒い斑点が出来ており、所々かさぶたになっていた。
身体の至る所に青アザが出来ており、首元は手の形が赤く残っていた。
「ジロジロ見てんじゃねぇ…殺すぞ」
父はタバコの火を女の胸で消した。
女は声にならない声を上げもがいていた。
目は明後日の方を見ており、口からはヨダレが垂れ流しだ。
そんな女にも目もくれず、父はこちらを睨み付けている。
やがて父はテーブルにあったガラス製の大きい灰皿を持ち僕の方へゆらゆら歩いてきた。
そして最後に見た光景は、
灰皿に残っていた吸い殻と灰で巻き上がった埃、そして僕の薄皮一枚で脂肪も無い腕、写真越しに柔らかく笑う母の顔。
・・・・・
全て思い出し、自分は死んだと悟った。
ならここは死後の世界ということなのだろうか。
ここは匂いさえ気にしなければ暖かい、そして父もいない素晴らしい場所だ。
安心感が込み上げ久しぶりに心の底から安堵した。
春の様な陽気を肺一杯に吸いゆっくり息を吐く。
高揚感が身体中に漲ってくる。
そうしてのんびりしていると声が聞こえてきた。
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