手がかり

 目が覚めた時はもう陽が傾き始めていた。

 迂闊にも寝過ぎてしまった。

 丸一日起きていたのだから無理もない。

 ブレアスは部屋を出ると、服屋に向かった。

 あの時に買った服を着て行った。

 街は収穫祭を前に、既にお祭り気分といったところだった。

 今年も天候に恵まれて、豊作だった。

 街の外には太陽神エルを祀る寺院があるが、収穫祭の儀式はそこで執り行われる。

 初穂を神に捧げる儀式だ。

 これは神職だけで執り行うため、人々は寺院には行かない。

 敬虔な者は寺院に初穂を納めに行く。

 主に農業従事者だ。

 またその収穫から作られる酒なども納められるが、麹を使って発酵させたものを蒸留するという古い慣しで作られたものが納められた。

 麹の種菌は寺院で保管され、発酵食品を製造する者は寺院から譲って貰って製造するのだ。

 その時には礼金として金を納める習わしだが、その金額に決まりはない。

 皆が思う額を支払った。

 酒に使うものに限らず、麦や米、大豆などにつく菌も大切に受け継がれていた。

 人々は寺院には行かないが、一年の労を互いに労って、街で祝うのだ。

 そろそろ大会優勝者が決まる頃だなとブレアスは思った。

 いつもなら闘技場で観戦して賭けに興じたが、近頃生きる道が大きく変化したせいか、意識から外れていたことに驚いた。

 おかしなものだ、と思った。

 服屋の扉の前に立った時、ふと前に来た時のことを思い出した。

 髪の長い少女が飛び出してきたのだ。

 あの少年と似ていた。

 十年前のあの出会いから、あの時エレノアに会いに行ってから、過去に紡がれた縁に引き寄せられているように感じた。

 その縁が何処に繋がっているのかは分からないが、物事には終わりがある。

 今はそれを見てみたいと思っている。

 ブレアスは店の扉を開けた。

 あの時の女が立っていた。

 今日はゆったりとしたチュニックにベストを着て、長いスカートをはいていた。

 女はブレアスを見ると笑顔で出迎えてくれた。

「先日はありがとうございました。よくお似合いだと思います。今日はどのような御用でしょうか?」

「実はあなたに聞きたいことがあって、仕事が終わった後に少し時間を貰えないだろうか?」

「聞きたいことですか? 少しなら構いませんが」

「では向かいの茶屋で待っているので、仕事が終わったら来てほしい」

「わかりました。ええと...、先日の服に何か不都合でもありましたか?」

「全くない。とても着心地が良く気に入っている。その礼もしたいのだ」

「それは良かったです。分かりました。ではまた後ほど」

 何とか協力を得られそうで、ブレアスは胸を撫で下ろした。

 警戒されて断られたら行き詰まってしまう。

 ブレアスは店を出ると、何時に終わるのか聞き忘れたことに気づいて頭を抱えた。

 仕方なく、店の前で待つことにした。

 ありがたいことに、店の前には腰掛けが置いてあり、そこに掛けた。

 店員が現れて店に案内しようとするので、待ち合わせなのだと説明すると、警戒するような表情に変わり、中に戻って行った。

 暫く時間が経ち、店員からの冷たい視線を感じながら、9時の鐘の音を聞いた。

 すると服屋の灯が落ちて、店員が店から出てきた。

 その中に彼女はいた。

 茶屋の前にブレアスを見つけると、彼女は笑顔で手を振った。

 同僚が冷やかしているようだった。

「お待たせしました」

「時間を作ってくれてありがとう。では入ろう」

 いらっしゃいませ、と言う先程の店員は、何やら意味深な表情で出迎えた。

 ブレアスは他の客から離れた奥の席を選んだ。

 店が見渡せるように壁を背にして、浅く腰掛けた。

 女は茶と蜂蜜を注文した。

 自分も同じものを頼んだ。

「改めて、来てくれたことに感謝する。俺はブレアス・コールドンと言う」

 そう言ってブレアスは頭を下げた。

「私はエマ・コーへンです。わざわざお礼だなんてびっくりしました」

「あなたが作った服はとても気持ちが良い。今まで服には無頓着だったが、中々良いものだと感心した」

「嬉しいです。食事に招かれたと仰ってましたね」

「あぁ、お陰でとても楽しく過ごすことができた」

「その服は結構良い生地を使ったんです。頑張って作った甲斐がありました」

「店の服はあなた方が作るのか?」

「はい、よく来てくださるお客様は採寸してお体に合った服を、お客様の好みに合った生地で仕立てますが、初めてお越しになる方やお急ぎの方などには予め仕立てたものから、お客様の体型に合ったものを選んでもらっています」

「なるほど、商品がない場合もあるわけか」

「そうなんです。仕立済みのものは店から生地を買って作っておくんです。私は最悪売れ残っても父が着られるように作っていましたから。ブレアスさんは私の父と体型が似ていたのです」

「ずいぶん大柄な方なのだな」

「はい、うちは農家なので、体つきはブレアスさんほどじゃありませんけどね」

「店から生地を買って、自分で作って売っているのか。売上はあなたが?」

「はい。生地の代金に仕立ての代金を合わせて値段を決めています。ところで、私に聞きたいことというのは?」

 本題に入るのを忘れていて少々慌てながら、切れ端を取り出すと、エマに見せた。

「この布がどんなものかわかるだろうか?」

 エマはレースの切れ端を手に取るとまじまじと見た。

「これは凄い物ですよ。こんな素敵なものが破れてしまったら、持ち主はさぞ悲しむでしょうね」

 その言葉はブレアスの心にチクリと刺さった。

 朝中央通りで拾ったと答えた。

「かなり高価なものだと思います。絹の細い糸で編んだものですね。私の祖母なら作れたんじゃないかしら」

「あなたの祖母はこういったものを作れるのか?」

「はい、祖母の編んだレースは結構評判が良くて貴族の方からも注文が来ていたようです。私も教わっていましたが、中々上達しないんです」

「その方にお会いすることはできるだろうか?」

「残念ながら、昨年他界しました」

 エマは俯きながらそう言った。

「でも店のオーナーが祖母のお弟子さんだから、もしかしたら分かるかもしれません」

 エマは匂いが気になるのか仕切りに布を鼻に寄せていた。

「かなり身分の高い方だと思います。この香り、一度しかきいたことがないのですが、恐らく白檀です」

「白檀?」

「はい、南方の香木なのだそうですが、数が少ないのかほとんど出回らないんです。だからすごく高価なんです」

「なら、業者も限られるな」

「流石に業者までは分からないです。ごめんなさい」

「いやとんでもない。良い情報をありがとう」

「いえいえ、お役に立てれば嬉しいです。どうしましょう、オーナーに聞いてみますか?」

「いや、その時はまた改めて伺うことにしよう。仕事で疲れているところ、ありがとう。これは少ないがお礼だ。受け取ってほしい」

 そう言うとブレアスは銀貨を一枚手渡した。

「ありがとうございます。またお店にもいらしてくださいね」

 ブレアスはエマを見送って、カップに残った茶を飲み干すと、店を出た。

 風が冷たくなってきた。

 ブレアスはゴル・ブレッサに会いに行こうと、彼の家に向かうことにした。

 彼の家はブレアスの自宅からそう遠くない。

 彼は軍人として街を離れていることが多かったため、未だに独身だ。

 住む家もブレアスと同じように、狭い借家だ。

 ブレアスは彼の部屋に着くと、扉を叩いた。

「ちょっと待ってくれるか、ドアは空いてるから入ってくれ」

 ブレアスは部屋に入った。

 ゴルは夕食を作っているようだった。

「おう、ブレアスか、どうした? その辺に座っててくれ。もうすぐできるから、食ってけよ。飯まだなんだろう?」

「あぁ、ありがとう」

 独り身で自分の飯を作るなど、物好きな男だと思った。

 自分も以前試みたが、食材を腐らせることが多く、諦めたのだ。

 鍋を振っているのか、リズミカルな金属音が心地よく聞こえた。

 肉の焼ける匂いと香辛料、そしてこれは醤油だろう。

 唾液が出てくるのを感じた。

 ゴルが大皿に盛り付けて持ってきて、小皿と匙を渡してくれた。

「さぁ食え」

 米と大麦と、細かく刻んだ野菜と挽肉を炒めた焼き飯だった。

 ブレアスは遠慮なく頂くことにした。

「どうしたんだこんな時間に。飯食いにきたわけじゃなさそうだが」

「ちょっと聞きたいことがあってな」

 焼き飯は美味かった。

 やや焦げた醤油の味がたまらない。

 何だ、言ってみろと言う顔で、ゴルは口を動かしながらブレアスを見た。

「黒塗りの馬車を知ってるか?」

 ゴルの動きが止まった。

 彼はゆっくりと小皿を卓に置くと、ブレアスを見ていた。

 何も言わず、眉を顰めた。

「何に首を突っ込んでる?」

「恐らくクリムに関係する話だ」

「学院が絡んでるのか?」

「学院の馬車なのか?」

 ゴルは思わず口を押さえた。

「クリムは以前俺に話してくれたことがあった。学院が懲役刑の囚人を利用してると言う話だ。そこのことを聞きに行こうとしたら、お前から失踪したと聞いたんだ」

 ゴルは小声で話し始めた。

「黒塗りの馬車は学院か貴族がお忍びで出かける時に使う。出るのも戻るのも大抵は早朝だ。いつも護衛がついてて、そいつらが御者をやるんで、中に誰がいるかなんて解りゃしない。俺たち衛兵の間では、あれには関わるなというのが鉄則だ。あいつは何を話してたんだ?」

 ブレアスはクリムが話していたことをゴルに話してやった。

 ゴルは頭を抱えていた。

「調べてくれてたのか」

「あぁ」

「面倒かけちまったな。あいつはもう戻らないかもしれない」

「早まった真似だけはするんじゃないぞ。弟の息子を守ってやれ」

「そうだな…」

 長い沈黙が続いた。

 ゴルはずっと俯いたままだった。

「まさかあいつが巻き込まれるなんてな」

 ゴルは涙を拭った。

「今日はこれで帰る。元気を出せ。甥のことを考えてやるんだぞ」

 ブレアスはゴルの肩に手を置くと、部屋を後にした。

 部屋に戻り、ヘルガから預かった服に着替えると、賑やかに行き交う人を抜けて南門を出た。

 渡し舟の者たちはちょうど引き上げようとしていたところだったが、頼み込んでティルナビスへと向かった。

 日暮れの河は静かで、櫂が水を蹴る音だけが聞こえた。

 月は雲に隠れたり現れたりして、地上のものを揶揄っているかのようだ。

 川面に映るティルナビスの街の灯明が美しかった。

 夜の街を遠くから見るのは昨夜も同じだったが、そこを行き交う人々はまるで違うのだろう。

 不思議なものだ。

 こんなふうに世界を見ている自分を不思議だと感じたのかもしれない。

 自分にはありふれた光景も、別のものにはそうでないことがある。

 当たり前のことではあるが、今更実感している。

 自分の世界は小さかったという実感だ。

 広ければ良いというものではない。

 どう受け取るかということだ。

 その中で何を選び取り、何をするのか、未だ決めかねていた。

 渦に呑まれてはいけないのだ。

 舟は性に合わないな。

 自分は地に足をつけていたい、それだけは間違いなく言えると感じて、妙に可笑しく、声に上げて笑ってしまった。

「旦那、なんかあったのかい?」

船頭が尋ねた。

「あぁ、意外なことに気づいて可笑しかったんだ」

「旦那も物好きだね、こんな時間に出かけるなんて。中洲の方が良いんじゃないか?」

「遊びたいわけじゃないんだ。人を訪ねに行くだけだ」

「気をつけな。最近変な連中が増えてるようだよ」

「肝に銘じておくよ、遅くにありがとう」

 ブレアスは賃料を余計に支払うと、舟を降りて街へ向かった。

 向かうのはサルマンの香辛料卸だ。

 香木の流通について聞いてみるつもりだった。

 幸いまだ店を開けており、幾人もの客が色とりどりの香辛料を見ていた。

 香りが立ち込めていて思わず鼻を覆った。

 ブレアスは外套を羽織ってその人混みにまぎれた。

「色んな香辛料があるんだな」

 店員がブレアスに反応して言った。

「あんたうちは初めてか? 遠慮なく見てってくれ」

「香辛料も良いんだが、知人が香木を探してるようなんだ。あんた何か知らないか?」

「香木か、あれは高価だからな。表には出さないんだ」

「ここで扱ってるのか?」

「勿論、だが間が悪いな。今は担当が街にいないんだ。改めて来ると良い」

「分かった、時間をとらせて悪かったな」

 ブレアスは店を出ると南に向かった。

 途中屋台で鳥の串焼きを買って、頬張りながら歩いた。

 途中細い路地に入って建物の影に隠れると、目の前を男が走り過ぎた。

 尾行がついていたらしい。

 男はブレアスを見失って悪態をついていた。

 ブレアスは逆に男をつけることにした。

 真後ろではなく、通りの端の死角から後をつけた。

 幾度か角を曲がり、着いたのはサルマンの香辛料店の裏だった。

 男が裏門に入ろうとした時に、ブレアスは声をかけた。

「俺に何か用か?」

 男は目を丸くしてブレアスを見た。

 尾行した相手につけられるていたことを知り、動揺していた。

「俺はただ、一日に二度も香木を求めに来たことが妙だと思っただけだ」

「何故妙なんだ?」

「香木を買いたがる奴は滅多にいない。それが二人も来るんだ。おかしいと思うだろう」

「もう一人はどんな奴だ? そいつもつけたのか?」

「知らない男だ。つけたのはあんただけだ」

「何故俺をつけたんだ?」

 言いたくなさそうな様子だった。

 少し脅してみるかと思い、外套を払い、剣の鯉口を切って柄に手を伸ばした。

「さっきの男に売った相手を話しちまったからだよ。二度も来るなんて絶対におかしい。だからあんたをつけたんだ。もう良いか?」

「なるほどな。誰に売った?」

「シエラの…、執政官だ…。もう良いだろう」

 男は怯えたように後退り、敷地に逃げ込んだ。

 シエラの執政官か。

 つまり、あの服はその妻か娘か。

 ブレアスはヘルガの元へ向かった。

 組合会館の門番に印を見せると、何も言わずに通してくれた。

「ヘルガさんに取り継いで貰えるか?」

 門番は少し待つようにいうと、奥へ消えた。

 暫くすると戻ってきた。

「姉さんは私室にいる。1階の奥の部屋だ」

 ブレアスは礼を言うと奥へ向かった。

 部屋の前に着くと中から声が掛かった。

「ブレアスか? 入れよ」

 ヘルガは風呂上がりなのか、濡れた髪を拭いていた。

「遅くにすまん」

「構わんさ。で、何か分かったのか?」

 ヘルガは厚めのガウンを羽織っていた。

 隙間から薄手の浴衣が見えた。

「布に付いた匂いを追った。推定だが、昨夜の馬車に乗っていたのはシエラの執政官に関係する者だ」

 ヘルガは手を止めてブレアスを見た。

「白檀に気づくとは、驚いた。自分で気づいたのか?」

「いや、服屋の娘が気づいた」

「服屋の娘が白檀の香りを知っていたのか。名前は分かるか?」

「エマ・コーへンと言っていた」

「はっはっは。お前はやはり面白い」

 ヘルガは口を開けて笑った。

「何がおかしいんだ」

 ブレアスは顔を顰めた。

「お前はカーレアンの造船所の社長の名を知ってるか?」

「知らない」

「知らないか。そうだろうな」

 ヘルガはガラスの杯を手に取ると、赤い葡萄酒を口に付けた。

「造船所は2社ある。その社長の姓はエサールと、コーへンと言う」

「コーへン…」

「奇妙な一致だな」

 ヘルガは笑っているように見えたが、目は違っていた。

「関係あるのか?」

「恐らくは、あるだろうが遠い昔だ」

 ブレアスは、自分のために用意されたように置いてある杯を手に取って、一気に流し込むと、ヘルガはガラスの平たい壺のようなものを指差した。

 好きに飲んで良いと言うことだろう。

 ブレアスはデキャンタを手に取ると、注ぎ足した。

「雷帝即位前に政争があった。旧王家を支持する守旧派とギルボワを支持する者たちだ。コーへンとエサール、それからエルムンはどちらも守旧派だったが、歴史の通り彼らは敗れてカレアンに流された。恐らくその女はコーエンの分家だろうな」

「なるほど、造船所の連中は今も守旧派なのか?」

「まさか」

 ヘルガは笑いながら答えた。

「奴らは新興王家も、政争に敗れた旧王家も恨んでるよ。何しろ花の都から未開の離島に追放されたんだからな」

「そいつらが仕切ってる島に王家は資産を移したって言うのか?」

「よく知ってるな。ふふふ、実に馬鹿げた話だろう」

 馬鹿げていると言うより、愚かだと感じた。

「しかし、これだけの時間でそこに辿り着いたのは見事だよ。それに敬意を表してもう少し情報をやろう」

 ヘルガは皿に盛った胡桃を摘んだ。

「シエラの執政官は入婿だ。実際に操ってるのは妻の方で、ロンバルドの王ラルゴ・ロンバートの妹サナエだ。あの馬車に乗ってたのは彼女だろう。それともう一つ気になることがある」

 ヘルガは葡萄酒で喉を潤すと続けた。

「近頃胡椒の値段が上がっている」

「何の関係がある?」

「毎年この時期は需要が多いから高いのだが、例年に比べると5割ほど高い。収穫量は昨年と大差ないのだが、まだ上がりそうだ」

「誰かが買っていると?」

「恐らくな。買い手は想像つくだろう。問題は何故買い漁ってるかってことだ。サルマンから乾燥仕上がった物が日々送られてくるんだぞ。何故買い占める必要がある」

 ブレアスは分からなかった。

「値が上がるからだろう」

「何故上がるんだ」

 ヘルガは笑った。

「上がるんじゃない。奴らが上げるから買ってるんだ」

「意図的にか?」

「そうだ」

「どうやって上げるんだ」

「まだ推測の域を出ないが、恐らくロンバルドはサルマンを攻める」

「いつだ」

「あるとしたら年明けて春だろうな」

「確実か?」

「まだ分からん。分からんから調べる」

「どこを調べれば良い?」

「後方支援を探れ。軍の兵糧を調べれば分かるだろう」

「分かった。調べてみよう」

「あまり焦るな。サルマン出身なのは知っている。焦って伝えたところで何かが変わる物でもない。軍の動向はウチでも調べられる。焦って動けば気取られる。軽挙能動は慎め。身を滅ぼすぞ」

「分かった。それと、俺が面白いとはどう言う意味だ?」

 ヘルガの表情が柔らかくなった。

「そういうところだよ。お前は知ってか知らずか、不思議な縁を持っている。その縁はお前が手繰り寄せているんだ。ここにいることもそうだ。そこが面白いんだよ」

「そうか…」

「まぁ気にするな。メルクオールもそういうところに価値を見出しているのだろう。お前は今のままで良い」

 ブレアスは酒の礼を言うと部屋を出ようと立ち上がった。

「宿はあるのか?」

 ブレアスは首を振った。

 ヘルガは人を呼ぶと、ブレアスを客間に案内するように伝えた。

 ヘルガはブレアスを見送ると、葡萄酒を飲み干した。

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