第55話 神と大蛇


 「べ、別にアンタと契約したいだなんて思う訳無いじゃないッ!」


 「御免ね、この子少し天邪鬼で…」


 あれから少し、此の四神界という謎の空間で白月虎と話した。  


 …如何やら父の話は本当らしい。 四神と呼ばれる彼らは俺の先祖に良くして貰った為、契約という形で大宮一族に力を貸している様だ。


 それと、少しだけ俺の一族の先祖であるサクラさんの事を詳しく聞き、今までこの話を父さんなどの家族、ミャーマルなどの四神が俺に伝えなかった理由も教えて貰った。


 『あの子は精神的に脆過ぎる。 強大な借り物の力を与えれば、アツヤの成長に悪影響を及ぼすだろう……』


 父さんがそう判断したことで、今まで四神やこの社の事を直隠しにして来たらしい。


 ……文句は無いが、精神的に脆過ぎると家族から思われていたのか……。


 そんな訳で、暫くはこの契約はお預けになる予定だった所が、何故か帰省した俺の様子を見て急遽真実を伝える事に決めた様だ。


 ……そして、最後に紹介したい子がいると言って彼は同じ四神とやらの一神を連れて来た。


 「まあ、アンタが如何しても契約したいって言うなら? 契約して上げないことも無いけど?」


 「……」


 すると、中々に癖の強い人? が現れた。 


 一見只の赤い羽根が綺麗な鳥と思うが、背中を見ると小さな岩? 山の様な尖った緑の水晶が生えており、何より人の言葉を喋る。


 やはり神と言うだけあり、現実の世界には居ない幻想的な姿をしているらしい。 ……ミャーマルはこの子に比べると只の白い虎だが。


 「という訳で、そろそろ時間だからこの子のことを頼むね!」


 「ちょ──!」


 白月虎もとい、ミャーマルはそう言って俺達を四神界から追い出した。 おい、俺は契約するとは──






 「お帰り! 数十分も直立不動で止まってたから心配したよ!」


 ……え? 俺あの間ずっと直立不動で立ってたの?


 「兄様の頭が狂ったかと一瞬疑ってしまいました」


 「……」


 「まあ、無事に契約が出来た様で良かった」


 そう言って父が俺の横を見ながら強引に締め括ろうとしていたので、思わず俺も顔を横に向けて神とやらを眺める。


 (馬鹿ッ! そんなに見つめるナッ!)


 ……本当に如何しよう。 俺は自然と頭の後ろに手を伸ばし、呆れた目で横の鳥を見ながら考える。


 「親父、四神ってチェンジ出来ない?」


  (……って何失礼な発言してんのよッ!)


 「悪いな、変更は不可能だ」


 ……如何しよう、この子と上手くやっていける自信が湧かない。 俺は横で忙しく飛び回る鳥から目を逸らし、山の頂上から見える絶景に現実逃避した。


 「綺麗な鳥さんだね!」


 「背中の水晶は魔石でしょうか? もし取れるの──」






 「俺の学園生活どうなるんだろう……」


 一年間欠席した後にクラスを移籍して、更には横で鳥を付随させて廊下を歩き、力を失って戻って来た元同級生を見て彼らはどう思うだろうか?


 アレックスとアスタは笑うだろうし、カテリーナも鼻で笑うだろうし、聖女様は……飼育員にでも成ったと勘違いするかな。


 「この水晶、引っ張っても抜けません」


 「僕に任せて!」


 (アンタの妹達、ヤバいわ! 速く助けなさいッ!)


 「……その辺にしてくれないか? 一応コイツ、神様だし──」


 (一応神って何よ、私は──)


 ……頭の中で甲高い声がキンキンと響いて非常に煩い。 こんな脳内構造だと普通の生活を送れるのかも怪しいぞ。


 「──そう言えば、アルトを呼んでくるの忘れてた!」


 アイツもこっちに来ていたのか? ……てか、弟の事を忘れる姉は人として如何なんだ。


 「早く呼ばないと怒られそうだから、ちょっと─「ってアレックス?」」


 トウカがそう言いながら玄関に走って行き、靴を履きながら玄関の扉を開けると泣きそうな顔をした王子が居た。


 「助けてくれよ! トウカとアツヤぁ……」






 「──でさぁ。 乱心した将軍様に娘さんを見つけて来いとか無理難題を押し付けられた訳」


 「ふーん、頑張って」


 「え? 手伝ってくれないの?」


 ……だって俺は魔力ゼロだし、兄妹喧嘩も出来ない程に弱いし。


 「僕もアツヤが行かないなら……」


 「二人共薄情過ぎない!?」


 「兄様、私久し振りにお祭りに行ってみたいです」


 「良いんじゃないか、偶には家族で祭りも」


 「いえ、二人きりで」


 「父さんは除け者!?」


 「僕もアルトと準備しとくね!」


 「みんなガン無視かよぉ……」







それから数時間後、俺達は近くでやっている祭りに行く事になった。


 「皆逃げろぉおおおおおおおお!」


 そして、気づくと祭り会場はある化け物によって破壊されていた。


 ……ソイツは蛇の様だが、その大きさは大抵の山を超え、少し動くだけで屋台が粉々になっていく。


 「ヒエッ……」


 今も此方に剛速球で飛んできた櫓の欠片が、俺の頬を掠って鮮血を舞わせる。 


 (何でコイツがこんな所に!)


 東京ドーム八個分の様な、八つの頭が星空を遮り、まるで世界の支配者の様な風貌、威圧感で俺をジッと見つめる。

 


 「……如何してこうなった?」


 

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