第54話 先祖と裏山

 

 「お前も少し可笑しいと思ったことが有るだろ、家の中にホワイトタイガーが居るのは普通じゃないと」


 「全然」


 だって、此処異世界だし。 前世よりも倍以上の人口が生活している世界だ、そんな家庭も中には有るだろ。


 「実はウチで飼っているミャーマル。 彼は和国の四神と言われる神の一人、白月虎ハクゲッコなんだ」


 「へーそうなんだ」


 このオジサンの言うこと、間に受けちゃ駄目だぞミャーマル。 俺はそう思いながら此奴を撫でると嬉しそうに口元を緩める。


 ほらな、こんな可愛らしい猫が神な訳無いだろ。


 「何故そんな神様がウチに居るか疑問に思うだろ? それについて説明するには、我が家。 大宮家の先祖について話す必要がある」


 ……俺って一応苗字あったけ? 家族の誰も使って無いから忘れてたな。


 「ウチの先祖であるアゲハ様は、理由は分からないが偉大な四神と親密な関係にあったとされている。 そして、彼女が死の間際で彼らに対して一言告げたそうだ」


 『私の子ども達を、気が向いたらで良いから助けてやって欲しい』


 「そして、その言葉を聞いた四神様は私達大宮の一族に力を貸して下さった。 其々が求める契約条件を満たすことで」


 凄い作り込んだバックストーリーだ。 前世の中二時代の俺でも此処まで凝ったモノは作ったことが無かったぞ。


 「だから、ウチの白月虎様も契約を満たしている事で我が家を守護して貰っている。 白月虎様を、この方を一人の家族として皆が接することで」


 そんな理由を頭の中で思い浮かべて此奴に接していたのか? 親父、妄想とはいえ其れはミャーマルに対して失礼だぞ!


 …彼は、俺が人間不信になっていた時。 トウカが隣に引っ越してくる前に家族の中で唯一安心して接することが出来た癒しだぞ!


 「俺達はそんな関係じゃないよな。 お父さんちょっと可笑しいな~」


 ほら、ミャーマルも俺が抱き着くと嬉しそうに抱き着き返してくれる。 


 「…まあ、良いか。 其れでお前にも契約を交わす年齢がやって来たので、念の為に四神様の社へ行こうという訳だ」


 「……俺はパスで?」


 「いや、お前が─「僕行ってみたい!」」


 仕方なく、トウカが興味津々といった目付きで此方を見つめてくるので、俺も付き合うことにした。








 「まさか家の裏山にその社があるなんて…」


 …懐かしいな、小さい頃に何度かこの山でトウカや妹、アルトを連れて遊んだっけ。


 「見て、勇者の剣!」


 トウカが近くの枝を拾って馬鹿な事をしている。 まあ、仕方ないので俺も彼女に付き合ってやった。


 「…行くぞ、トウカ!」


 俺は地面に落ちていた小石を拾い、それを彼女の方に投げる。


 山なりの優しい軌道で投げた俺の小石は、彼女が振るった枝によって空中で一刀両断にされる。


 「…流石だな」


 「一体、如何いう原理何でしょうか?」


 そんな下らない遊びを繰り返しながら、着実に上へ上へと登っていき頂上に着いた。


 


 「此れが噂の社か」


 …思っていたよりも何倍も作り込まれていた。 少し柱などは年季を感じるが、それでも職人の細やかな拘り、丁寧な想いが時を超えて伝わってくる。


 ──それに、所々純金と思われる様な希少な金属も使われているな。


 「トウカさん、粗相をしない様に気を付けてくださいね」


 「了解!」


 大丈夫かな? まあ、壊れたとしても父親の妄想で作られた架空の神を祀る所だから大丈夫か。


 「それじゃあ、この扉を開けてみてくれ」


 「この社の扉を? 開けたら呪われたりしないかな…」


 俺はそう思いながら、ゆっくりとその小さな扉────





 

 此処は? 確かさっき俺は家族達と一緒に──。


 「アツヤ、話すのは初めてだね!」


 突如、横で俺の足に擦り寄っていたホワイトタイガー。


 …綺麗な白い体毛に包まれた俺の家族、白虎のミャーマルがそう言った。


 ……ん?


 「お前、話せたのか!?」


 「だって、一応神様だし」


 ──親父の言ってたこと、本当だったのか?


 

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