第53話 妹と四神契約
「まさか、息子があんな血だらけで帰ってくるとは思わなかったぞ!」
「本当に…ごめん!」
「…死ぬかと思った」
瀕死の俺はトウカによって実家へ運ばれ、何とか一命を取り留めた。 だが、血塗れになった服はどうしようもないので洗濯している。
…だから、今俺が着ている服は父のダサい『人生』Tシャツだ。
「ありがとうミャーマル、助かった」
俺は自分を助けてくれた我が家で飼っているホワイトタイガーを撫でる。 すると、彼は嬉しそうに猫撫で声を上げた。
…此奴の体毛は何故か、一本でも飲むと大抵の怪我は治る摩訶不思議な能力を含んでいる。
「…兎に角、お前が元気そうで良かったよ! 学園長からお前が行方不明になったって聞いた──」
「兄様、帰って来たのですか」
父が話そうとした時、その声を遮るように一人の少女が現れる。
「久しぶり、コウカちゃん!」
「コウカ…」
一瞬、見間違うほどに彼女は大きく成長していた。 二年前は、俺の胸ぐらいまでの身長しか無かったのに。
「久し─「手紙返せよ、クソ兄貴」ッ!?」
感動の再開かと思いきや、俺は突然愛する妹に顔面を強打された。
手紙? …そういえば、学園に居る時に後で返事をしようと思っていた紙の束があったかもしれない。
「わ、悪い。 色々と諸事情が積み重なり、返─「言い訳すんな」ッほげッ!?」
彼女はその殺意の籠った拳を止めることなく、一人しかいない兄妹に向かって振り続ける。
「……息子が、一日に二度も死に掛けるなんて──」
見ていないで助けてください、父上…。
♢
「これからは、一日一回手紙は返して下さいね」
「…はい」
正直、魔力を失った俺では彼女の猛攻を防ぐことが出来なかった。 存分に顔や腹を殴られて意識が朦朧としている。
「大丈夫ですよ、兄様が唯一の取り柄である魔法が使え無くても、私が一生養いますから」
「あ…うん……」
「コウカちゃん、相変わらずブラコン!」
あ…あ。
「…前と違って余裕がありますね。 トウカさん、何か兄様と進展が有ったのですか?」
「別に、何も無いよ? 只…アツヤの本当の気持ちを知ったぐらいかな?」
「ひッ!?」
ゴンッ! 妹が無表情で、勢いよく机に腕を打ち付けた。 俺は思わず、突然の凶行と轟音に驚き悲鳴を上げてしまう。
「いえ、そんなこと有りません! 兄は妹ラブの変態シスコン野郎なんです!」
「ウチの机、壊れちゃったな…」
妹が突然トウカに向かって、俺に対して失礼極まりない言葉を発した。
「だってコウカは! 兄様と小さい頃に結婚の約束もしたし、風呂だって一緒に入りました!」
「へー結婚の約束、お風呂も一緒に入ったんだ?」
冷たい目で此方を、裏切り者と言うように俺を見つめる。
「いや、結婚の約束はどうせ大人になって確実に忘れると思って適当に……それにお風呂は、小さい子供を親が入れてあげる様なモノで──」
「お前は妹の心を弄んだのか!」
親父が突然怒鳴り、俺の隣から彼女達の方に席を移動する。
…此奴、妹達が怖いから俺を売って自分に被害が来ない様に──。
「父さんは黙っててください!」
「え──」
しかし、反抗期の娘によって蹴飛ばされ、部屋を遮る障子ごと廊下に勢いよく消えていった。
「親父!?」
この娘、バイオレンス過ぎる…。
「怖いね、アツヤ! 実の父親を足蹴にするなんて」
トウカ、小さい頃にお前も似たような事をしていた気がするが…。
──って、彼女はいつの間にか俺の腕に自分の腕を組んでいた。
「お、おい。 人前でこんな事…」
「だって僕達、両想いだったでしょ? それってもうカップル同然だよ!」
「そ、そうなのか?」
彼女が出来た事が無いから分からなかったが、これが普通なのか?
「まさか、兄様と二人は本当に…」
「御免ね! 君の居ないうちに僕達付き合うことになりました!」
「…俺達、付き合っていたのか?」
俺の小さな呟きは幸か不幸に誰からもツッコまれず、コウカは只忌々しそうに横の幼馴染を睨みつけていた。
「…ずっとこの時を楽しみにしていたのに。 久し振りに会って、実は私達は本当の兄弟でないことを明かされてお互い…」
そんな漫画みたいな展開、この平凡な家族にある訳無いだろ…。 母親だって今は居ないだけで、普通に生きてるし。
「話も纏まった様だし、本題に入ろう」
そう言って、何気ない顔で隣の部屋からやって来た親父が真剣な顔で俺の前に座った。
「本題?」
「ああ、ウチが代々繋いできた四神契約についてだ」
…どうやら、親父は未だに中二病を患っていたらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます