第2部

第52話 里帰りと再会


 「今ってそういえば夏休みか…」


 『アツヤ、一度地元に顔を出したらどうだい? 流石に息子がこんな事に遭ったら、顔を合わせたいと思うのが家族というものだよ』


 …俺は師匠である校長先生からの言葉で、取り敢えず地元の和国わくにへ里帰りをすることを決めた。


 「初めてだな、こんなにゆっくりと飛行船に乗るのは」


 一回アルトに頼まれて乗ったことはあるが、それは此れが完成する前の試運転みたいなモノだったしな…。


 (…誤作動で急に海に向かって急降下し始めた時は、流石にビビった)

 

 その試運転の時、何かトラブルが有ったらしく俺達は墜落寸前に陥った。 というか、乗っていた飛行船は墜落した。


 だが、俺が空間魔法を使えたおかげで乗客全員何とか無事に帰還。


 ……まあ、飛行船はまた一からの作り直しになったが。




 「…俺って今まで少し焦りすぎていたかもな」


 ──考えてみれば、この世界に転生してから此れ程までにゆったりとした時間を過ごしたのは始めてかもしれない。 


 「着くまで時間もあるし、如何するか」


 …俺はそんなことを考えながら、女神から貰った神の間で流行っている飴とやらを鞄から取り出す。 


 ──それは、見た目はビー玉だが確かに食べれるらしい。


 「取り敢えず、温泉に─「旨そうなモノ持っているな、アツヤ!」」


 「へ?」


 俺は突然後ろから声を掛けられ、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。 そして、恐る恐る振り返ると、その顔には見覚えがあった。


 「アレックス王子か?」


 「大正解! 久しぶりだな、アツヤ!」


 そう言って王子は俺に対して手を差し出し、俺は自然とその手を掴んで握り締めた。


 「お前は居なくなった時から全く、一切変わってなかったからすぐに分かったよ!」


 「そういうアレックスは凄くデカくなったな。 最後に会ったときは同じぐらいの背だったのに」


 アレックス、十三センチぐらい伸びて…百八十センチを超えているんじゃないのか?


 「まあ成長期の一年だ、お前もこれから伸びるから気にするな!」


 そう言って奴は俺を見下しながら頭に手を置く。 …此奴、無意識にマウントを取ってくるな。


 「…そういえば、何で和国行の飛行船に乗ってるんだ?」


 「ああ、国の代表として俺が選ばれたんだ。 お前の故郷と親交を深めて来いって」


 「民間用に乗って、護衛も無しに?」


 「…民の生活を知るのも上の役目さ」


 第三王子、国から蔑ろにされ過ぎてないか?


 「後、将軍の娘が化け物に攫われたらしい」


 「え、和国のトップの子供が誘拐?」






 俺は暫く王子と飛行船を満喫した後、着陸する前の数十分間を露天風呂で過ごしていた。


 此処のは凄い。 天井が見えないはずなのに、辺り一面に設置された魔道具を駆使して本物と見間違う様な美しい星空を演出している。 


 それも、夜風などの細かい所も忠実に再現されていて屋内にはサウナも有る。


 「…俺が居ない一年間、魔族の動きに変化はあったか?」


 「…魔族か。 そんなもの居ないぞ~」


 少しのぼせ過ぎたのかもしれない。 俺は彼の言葉を聞き間違えたようで、もう一度聞く。


 「…あれ、昔から人類と争ってた種族…魔族は今如何なった?」


 「…だから、そんなの居ないよ。 サウナ行こうぜ~」


 そう言って、アレックスは風呂から上がり、屋内の方へ去っていった。


 「…まさか、本当に魔族が居ないのか?」


 …神様、俺を返す世界線間違えたのではないでしょうか?







  まあ、色々と疑問は出来てしまったが気持ちを切り替えよう。


 「久しぶりだな、俺の故郷」


 そこは多くの木造建築が建ち並び、此処でしか見ない様な店も数多く並んでいる。 


 「此方で外国から流れて来た、抜群の効き目の美肌クリームが売って────」


 「和国名物、妖饅頭を買わないと呪われちゃうぞ~」


 「将軍の娘が行方不明だッ! 見つけた者には────」


 相変わらず王国と違って道が狭く、目を疑う程の騒々しい人混みだ。 


 …だが、この中を歩いていると呆れと同時に此処での思い出が蘇ってくる。


 俺は激流を流れる小石の様に周りから押されて前へ前へと進んでいく。







 ──暫く歩き、遂に大通りを抜けることが出来た。


 「疲れた…もう、王国に帰ろうかな?」


 そんな冗談を思わず口に出しながら、先程と比べて活気が無い静かな横道を僅かに残った元気で歩く。


 「…元気にしてるかな?」


 俺は二年以上会ってない家族のことを思い出しながら、回り道の角を曲がる為に────


 「ブッ─「キャッ! ご、御免な…ってアツヤ!」」


 俺は大型トラックに轢かれたかのような衝撃を受けて、道路端の壁に激突。


 「…死ぬ…」


 魔力も無くなって身体強化も使えない俺は…その衝撃で瀕死状態だ…。 


 「し、死なないで、アツヤァ!」 


 「…取り敢えず、俺の家に速く──」


 まさか彼女との再会が、こんな形になるなんて…

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