第50話 決着と想い


 「アツヤは、この力の所為で操られているの?」


 「────」


 彼の身体は段々と黄金の炎に侵されていき、彼自身もその強大な炎の一部となっていく。


 「もう辞めてよ…」


 僕の言葉が届いたのかは分からない。


 「炎が…止んだ?」


 だが、その途中でガスが切れたように炎は消え、魔王の身体は静止した。 そして残ったのは、虫食いに遭った葉の様にボロボロになった幼馴染の身体だけ。


 「……これで…終わったんだ…」


 僕は彼の身体を抱えて泣いた。 泣いたのなんて子供ぶりだろう。 だけど、泣いても泣いても一向に涙が止まらない。


 「…僕も…行くからね…」


 震える手で彼の残した短剣を握って、僕は同じ彼と同じ様に心臓────。


 その時、時が止まったかのように身体が動かなくなった。


 「早まらないでください」


 そう言って、閉じない目線の先には一人の女性が立っていた。


 「まさか、お前が彼をこんな目に合わせたッ─「申し訳ありません、部下のミスは上司の私の責任です」」


 「…上司?」


 如何やら口は動くらしい、僕は直ぐに会話の続きを促す。


 「…それって如何いうこと?」


 「ですので、神である部下のミスは同じく神である私の責任です。 なので、責任を取って今までの事を無かったことに──」


 「アツヤは如何なるんですか?」


 僕は嫌な予感がして、思わずに彼女へ問いかけた。


 「彼には…部下によってある欲求を暴走させられた結果なので、本当なら皆様と同じ様に元の生活に戻してあげたいのですが──」


 「戻してください、彼は大事な─「ですが、規則ですので相応のペナルティを受けて貰います」」


 なんで、彼はその部下とやらの所為でこんな事になったのに!

 

 「そんなッ! 如何にか、僕が代わりに受けたって良いですから!」


 「申し訳ありません。 …取り敢えず、幼馴染さんと話してみてはいかがですか?」

 

 「…アツヤと?」


 「ええ、その後にまた話は聞きますので」


 …そうしよう。 アツヤと話してから全てを決めよう。


 「分かりました、彼と話させてください」


 「お任せを、時間を気にせず好きなだけ話して来てください」


 彼女はそう言って、僕を見渡す限り何も無い真っ白な世界に送った。






 俺は──。


 色々なことを考えていると、目の前にトウカが来た。


 「ねぇ、話してよ全部」


 「…俺から言うことは─「いい加減にしてよ!」ッッッ!?」


 俺は彼女に思いっきり頬を殴られた。


 「いつもカッコつけて大人ぶって! 実は中身が馬鹿なくせに!」


 「馬─「自分の気持ちに蓋をしないではっきり言いなよッ! 私達、幼馴染でしょ!」」


 ──俺達は、幼馴染か。

 

 …そうだな、俺の馬鹿な欲望がこの結果を招いたんだ。


 「…俺に話させてくれ……こんな馬鹿の独り言を聞いて欲しい」







 「俺って漫画とかでよくある転生者でさ、前世で科学だけが発展した世界で暮らしてたんだ」


 「うん」


 「そこでさ、好きな幼馴染が居たんだけど一向に振り向いて貰えずにさ、何故か俺、他の女子から告白されたんだよな」


 「う、うん」


 「それでさ、その女子を好きだった俺の親友に嫉妬されて殺されたんだ。 丁度近くを通った居眠り運転のトラックの方へ突き飛ばされて」


 「え!?」


 「だからさ、俺この世界に転生したばっかの時は人間不信で周りの人が怖かったんだ。 だから、強くなって誰からも殺されないぐらいに…最強になりたかったんだ、周りに愛されたかったんだ」


 「…うん」


 「でも、お前が小さい時にそんな俺を支えてくれたんだ、必要としてくれたんだ」


 「うん」


 「だから、俺がトウカを一生守れるぐらい更に強くなろうと思ったんだ。 だって、小さい頃はお前弱かっただろ」


 「うん」


 「でも、それから直ぐにトウカは俺より強くなって…必死だったんだ、お前に追いつくのに」


 「…うん」


 「だから、いつからか最初の目的も忘れてお前を倒すことだけに熱中してたんだ…」


 「うん」


 「本当は、只お前が大事だったんだ。 隣に立って歩きたかった」


 「…うん!」


 「……それが、いつの間にかこんな変な道を走っていたんだ。 こんな結末を招くまでの間違った道を」


 「…うん」


 「アレックスにメイベルにアスタにソフィアにカテリーナに…勿論お前を含め多くの人に取り返しの付かないことをしてしまった」


 「……うん」


 「だから、俺はケジメをつけたいんだ。 神様の言う罰を受けて…お前達と関わらない場所で人の為に生きたいんだ」


 「神様の罰って?」

 

 「軽いものさ、。 だから、お前達が元に戻った平和な世界で一年過ごせば帰って来れる。 勿論、還ったら学園は去るが」


 「…そっか。 アツヤはそれを望むんだね」


 「ああ、これが俺の本心だ」


 「でも、一つだけ許可できない」


 「?」


 「学園を去るのは、迷惑をかけた人達への逃げだよ」


 「……」


 「それにさ、一人で全部溜め込んだらまた今回みたいな事が起こるかもしれないじゃん」


 「……ああ」


 「だからさ、帰ってきたら一日一回全力でぶつかり合って気持ちを伝えよう。 悩みや望みも全部」


 「…良いのか…そこまで迷惑を掛けて?」


 「…勿論、僕に全部任せて! ちょ、ちょっとだけ目を閉じててね!」

 

 「……お、おい! お前、今俺の頬に──」


 「大好きだよ、アツヤ!」


 

 「──俺も、トウカの事が好きだ!」


 「やっと気持ちが聞けて、伝えられて良かった!」





 「……ありがとう、時間みたいだ」

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