第45話 開戦と雷神
「メイベルはアツヤが何処に居るのか知らない?」
「すまない、私が最後に会ったときに彼は何事も無く自室に居たんだ。 だから、今何処に居るのかは見当もつかない…」
アツヤが居なくなってから十日が過ぎた。 多くの人が捜査に協力してくれているが、未だに僕の幼馴染は見つかっていない。
「…しょうがないな、学園は少し休んで本格的に────「学園に大勢の魔族がやって来た、それも大量にッ!」」
そんな悲鳴に近い男子生徒の声が聞こえ、私は咄嗟にその声がした窓を覗く。
「…あれはアツヤの空間魔法、如何して!?」
そこには空間魔法で永遠に送られてくる魔族の数々。 それも校外だけでは無く、学園の屋上からも多数の魔族がやって来る。
「とにかく、今は目の前のことを何とかしないと!」
一方アルキド帝国の皇子の元にも襲撃者がやって来ていた。 ガルオス学園とは違い、一人の魔族だけだったが。
「おいおい、とんだイカした姿になったな! 空間野郎ッ!」
黄色の羽織の下はシャツすら着ていない上半身裸の男。 更には多くのピアスなどの装飾品やサングラスを掛けたそのチャラチャラした見た目の男。
彼は見た目からは考えられない強さを持つ、帝国最強の魔法使い。
──帝国の守護者、通称【雷神】と呼ばれる彼は目にも止まらぬ速さで目の前の魔族に向かって雷撃を放つ。 それは、この場所一帯を包む様な大きさの落雷だった。
本来ならば、こんな城の中で此処までの規模の魔法を使うことは許されない。 だが、彼の周りに居た皇子や貴族は先に一人残らず殺されてしまった。
「懐かしいな。 お前のせいでネットワークがすべて駄目になった日のこと今でも覚えてる」
「その時は悪かったな! だが、勝手に糞共が俺の悪口を書き込んだのが原因なんだぜッ! だから俺に罪の所在は無ァシッ!!」
だが、それを顔色一つ変えずに新たな魔王である彼はお得意の空間魔法で落下地点をずらし、遠くの街に解き放った。
「そんなに攻撃しても、被害が増えるだけだぞ。 大人しく殺されろ」
魔王は魔力を雷神に向けて操作し、その首と胴体を二つに引き裂こうとした。 だが、咄嗟に雷神は自分の身体を電気に変えることでその場から離脱。
「周りのことなんて知るかよッ! 只、俺は目の前のイキッてる小僧をぶち殺すだけだッ!」
「…年中イキっているジジイに言われたくないな」
そう言って雷神は雷と化した身体で、目視が不可能の速度で辺りを飛び回る。そして、その速度を維持したまま奴は右手を振り上げて魔王に拳──
「流石に、これ以上は付き合えないな」
そう言うと、魔王は額の白い結晶を輝かせて辺り一帯に魔力を解き放った。
それにより、彼が居た城内は一瞬にして消え去った。 いや、城内だけではなく近くにあった城下町さえ跡形もなく消滅した。
「…次に邪魔になる奴は──」
魔王はそう言いながら魔法を使ってその場を去る。 次に、自分と幼馴染の戦いを邪魔する虫を消す為に。
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