第28話 休日と剣聖


 明日から俺は帝国の王子の護衛に就くことになる。 なので、今日は最後の休日に冒険者ギルドへ来ていた。


 「ここが人間の冒険者ギルドってやつか。 荒くれっぽい見た目の奴も沢山いるな!」


 今日は珍しく俺の近くにいる半透明な魔王が横をふよふよと飛んでいる。


 (魔族の世界には似たようなものは無いのか?)


 「魔族はそこまで仲間意識がないからな。 自分の身は自分で守ろうが基本だし」


 そんな風に脳内で話しながら受け付けに並んでいると、ようやく順番が来たようだ。


 「いらっしゃいませ…貴方は、【空間支配エリア・マネージャー】のアツヤ様!? すぐに部屋へご案内します!」


 そうだ、俺って冒険者ギルドでこんなクソみたいな異名を付けられてたんだ。 


 …仕方なく、俺は彼女に付き従って歩いていく。






 「久しぶりだな、王都随一のS級冒険者のアツヤ!」


 「一か月前ぐらいに会ったがな」


 何故か大げさに再開を喜ぶこのおじさん、この王都におけるギルドマスターであるザンギスだ。


 「今日はどんな依頼をご所望だ? ドラゴン退治か盗賊団の壊滅、それとも彼女でも探しに来たか?」


 「こんな男ばっかの場所にそんな理由で来るかよ」


 「冗談だよ、こんな依頼はどうだ?」


 そう言ってスキンヘッドの彼が一枚の紙を机の上に置く。 それは、ある男の捜索依頼だった。


 「ザルバルト家のご子息様が消息不明らしい」


 「アスタの奴、行方不明になっていたのか」


 確かに最近見かけないと思っていたんだ。 だが、まさか行方不明になるとは思わないだろう。


 「…まあ、暇だし。 この依頼を受けることにする」


 「おお、そうか! コイツのママも心配しているようだし、いち早く見つけてくれよ!」


 俺はオッサンに背中をバシバシと叩かれながら部屋から出て行った。



 …アスタ、出来れば死んでないといいが。






 「三百十四、三百三十五ッ!」


 速攻で見つかった。 そして、何故か山の頂上付近でスクワットをしていた。


 「こんな所で何やってんだ?」


 「トレーニングだ! 火竜達の攻撃を必死に耐えながら筋トレを行うという一石二鳥な──」


 コイツってこんなにイカれた奴だったのか。 依頼は達成したし帰っていいかな。




 「実は俺変な夢を見たんだ。 勇者の仲間になって魔族に立ち向かうんだけど一度も良い所を見せられずに毎回終わるんだ」


 「……」


 「俺って剣しか取り柄が無いのに、それすら上回る奴が何人もいるんだ。 だから、俺に剣を教えてくれた師匠の為にも強くならなくちゃいけないんだッ!」


 「成程な、そんな焦りでこんな無茶なことをしているのか」


 そうか、コイツも俺と同じ様に現状に不満を感じているのか。


 「ああ、俺は頭が良くないからな。 取り敢えず閃いたら何でも試すことにしてるんだ!」


 「──しょうがない、俺も付き合ってやる!」


 「おお、意外と筋肉あるじゃねぇか!」


 それから俺達は日が暮れるまで筋トレをし、その後シャワーを浴びてギルドにそのまま戻った。


 見つけたら速く報告しろと当然ながら怒られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る