第19話 敗北と思惑


 魔方陣を使って山の頂上へ戻ると、カテリーナが単身で襲撃者と思わしき魔族と戦っていた。


 その魔族は額に今まで見た事ないほど輝いた結晶を携え、美形だが表情に乏しくまるで人形の様だった。


 「師匠、奴の魔力を吸わないで! それを吸うと強制的に眠らされる!」


魔族が火の槍を数えきれないほど自分の辺り一帯に生み出し、それをカテリーナに向かって放ち続ける。


 彼女は必死に避けながらそう叫んだ。


 「了解、手を貸す」


 俺は空間魔法で外の空気を遮断するマスクを創り、それを口元に当てながら即座に奴の首筋を風の中級魔法であるウィンドカッターで断ち切ろうとする。 だが、奴の強力な魔力が強引に俺の魔法を霧散させる。


 「コイツ! 俺達人間の魔力とは桁違い、そもそも根底から違っている」


 コイツはこの前の四天王やらとは訳が違う。 自身に近づく魔法を自然と体から発する魔力で無効化する。


 「…コイツには俺達だけでは勝てない、いったん退避するぞ」


 俺は戦っている最中のカテリーナと眠った勇者一行に無理やり転移魔法を発動した。


 「──」






 俺達は一度学園に戻って話し合うことにした。


 「奴は近づく者を問答無用で眠らせるだけでなく、魔法ですら辺りを漂う魔力が強制的に無効化する」

 

 「…剣しか能の無い俺じゃあ役に立てそうに無いな」


 「私の聖魔法でもあの能力に対抗する術がないようです。 申し訳ありません」


 「……ごめん」


 俺達は奴に成す術無く敗北し、すっかり空気はお通や状態となっていた。


 「まさか、勇者様ですら簡単に眠らされてしまうなんて。 彼の魔力は聖なるエネルギーとやらでも無効化できないのでしょうか?」


 「……言いたいことがあるんだけど、怒らないで聞いてくれる?」


 申し訳なさそうな顔をしてトウカが皆に問う。


 「別にこんな状況だ、思う事があるなら言うといい」


 「……僕、あの時普通に寝てました」


 …?


 「それって、能力関係なしに睡魔に襲われてという意味で?」


 「……」


 「まじかよ」


 「あ~そう言えばトウカ眠そうにしてたもんな、アツヤを待っている間。 ま、まあ逆にあの騒音の中で寝れるってスゲーよ!」


 ……もしかして、あの時トウカを起こしていたら普通に勝てたんじゃないのか? 奴の使う火の攻撃魔法はそこまで強力では無かったし。




 「まあ過ぎたことは仕方ありません、取り敢えず今日のことは忘れて次の聖具を探しに向かいましょう!」


 聖女様がそう言って会議を強引に締めくくった。






 夜、俺は学園に用意された自室で眠れずに居た。 それは、今日のことは勿論、様々な考えが脳裏をよぎったからだ。


 (俺って如何してここまで真剣に戦っているのだろう?)


 偶々魔法の手違いでこの世界に訪れただけだ。 なのに自分のエゴを捨ててパーティのまとめ役になって憎き幼馴染の為に働く。


 「…俺らしくないよな」


 挙句の果てに一人の魔族に対して全く歯が立たなかった。 自慢の魔法も無効化され、無様に転移魔法で逃げる始末。


 「もう一度、あの魔法を使ってみるか」


 そうだ、別に俺は元々この世界に居ない人間だったんだ。 きっと俺が居なくなったって大丈夫なはず。


 ……あれ、そもそもこの世界に居た俺は何処に行ったんだ?


 俺がその考えに辿り着いた直後、扉を叩く音が聞こえた。


 「師匠、カテリーナよ!」


 「…今開ける」


 俺が仕方なく扉を開けると、可愛いパジャマ姿をした青い髪の少女が居た。


 「こんな夜遅くにどうした?」


 俺はベッドに座ってそう問いかけると、彼女は答えた。


 「あなたは師匠じゃないでしょ、といっても別人な訳ではない」


 「──どういう意味だ?」


 「初めまして、違う世界線のアツヤ」


 彼女はニコッと笑い、俺の耳元で囁いた。


 


 

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