第12話   創造と異変


 「まさかこの名作をまだ読んでない人間がいるなんて!」


 「ごめんね、アツヤは小さい頃から魔術書ばっか読んでいていたから──」


 「母親面すんな! それと読まないなら速く貸せ!」


 俺は本を読まずにベラベラと喋っている【魔法の申し子】を急かす。 


 「少し待っていなさい、少し読み直すだけだから!」


 そう言って彼女は亀の様な遅いペースでページを捲っているので、俺は仕方なく他の本から読むことにした。


 「【アルター・ゲート】か。 オカルト研究部の生徒たちが謎の機械で別の世界線に───」


 これは面白いな。 ほのぼのな日常からの急なシリアス展開、皆との思い出や願いを犠牲にしながら前に進むストーリーが涙を誘う。


 (この世界には元々一つの世界しかなく、それらがバタフライエフェクトなどで分岐することで複数の世界線が生まれているのだろうか?)


 俺は試しにと、開発中の魔法を少しいじって発動してみる。


 (まあ、発動する訳ないか…)


 俺は気持ちを切り替え、様々な本を日が暮れるまで読み続けた。








 「まさか本を読んでたらあんな時間になるとはな」


 一度読み始めたら最後まで一気に読みたくなるような作品ばかり。 まさかこの世界はあんなにも名作揃いだとは驚愕を隠せなかった。


 

 それにしても、俺を置いて二人共帰るとは少し冷たくないか。 まあ、別に悲しかったとかそんな感情は無いが。


 あと、今日はルームメイトである寝坊助オルフの姿も見当たらない。 珍しく何処かに出掛けているのだろうか?


 


 ドンドン!


真夜中なのにそれを気にしないような大きな音で部屋の扉が叩かれる。


「夜分遅くに失礼いたします。 勇者様一行が【大賢者】様をお呼び出しのようです


 …大賢者?


「なんの悪戯だ?」

 

 俺が扉を開けると、そこには神妙な顔をした第三王子であるアレックスがこちらを見つめていた。


 「お前かクソ王子、時間を考えろ」


 「ですが、一刻を争う事態とのことなので──」


 「いい加減に演技はやめろよ…」


 俺は呆れながら奴にそう言うが、アレックスは演技を一向に止める様子はない。


 「分かったよ、取り敢えず行けばいいんだろ!」


 俺は少しイラつきながら奴に案内され、勇者とやらの場所に連れてかれる。






 「こちらで皆様がお待ちしております」


 ここは、校長室か。 流石に此処で悪ふざけをするのは冗談じゃすまないぞ。


 (まあいい。 少し中を覗いてすぐに帰ろう)


 俺はそう思って荘厳な扉を開けて中を覗く。 すると、そこには奇妙な格好をしたトウカと【聖女】ソフィアの姿があった。


 「あ、アツヤ様! ひ、久しぶりです」


 「──お前は、トウカなのか?」


 そこには、オドオドとしながら俺に挨拶をするトウカの姿があった。

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