第6話 愚者と強者


 やはり俺が奴より圧倒的に強くなる、それしか俺強えぇぇ! を達成する方法は見当たらない。


 「その為にも、俺はさらに強くなる!」


 「ワンッ!」


 俺は背中に大型犬の見た目をした召喚獣、通称ケルベロスを重り代わりに腕立て伏せを行う。


 「その為には、新しい魔法が────」


 「アツヤ君は真面目だね、休日も魔法の研究や筋トレばっかしているんだから」


 俺を眠たそうな眼で見ながら、パジャマ姿のルームメイトであるオルフが話しかけてくる。


 「少しでも油断したら置いてかれる、俺の越えるべき障害は煩わしい程に高いからな!」


 「そんな高い壁があったら僕は直ぐに諦めて寝るのに」


 確かに、最初から奴の実力が分かっていれば諦めていたかもしれない。


 だが、俺達の戦いはもう立ち止まることが出来ない段階に来ているのだ。


 「でも、偶には息抜きも大事だと思うよ。 それこそ新しい魔法を創るのなんかは閃きも重要でしょ?」


 「……確かにそうだな。 だが、なかなか効率の良い気分転換が思いつかなくてな」


 「それなら、君にこの映画チケットを授けよう!」


 「これは、【大賢者アーロイの旅路】の映画チケット?」


 「昔の偉人の映画とか、良いアイディアが浮かぶ気がするんだよね! 勿論、偶々無料で手に入れたものだからお金を払う必要は無いよ!」


 「そ、そうか。 それなら気兼ねなく貰うことにするよ、ありがとな!」


 「どういたしまして」


 俺は何故か二ヤつきながらこちらを見るオルフからチケットを受け取った。







 数時間後、何故か俺は宿敵の幼馴染であるトウカと一緒に映画館に来ていた。


 「まさか、アツヤとこんな所で偶然会うとは思わなかったよ!」


 「…何でよりにもよってコイツと鉢合わせるんだ」


 「何か言った?」 


 「別に」


 何でコイツと休日まで顔を合わせなくちゃいけないんだ!


 まさかオルフが仕組んだのか? 思い出したらアイツ妙にニヤけていた気がしなくもないッ!


 「……帰ったら二度と眠れない体にしてやる」


 「映画始まるみたいだよ、行こっか!」


 トウカはそう言って俺の腕を無理やり掴んで歩き出す。


 「掴むな、ガキじゃあるまいし」


 「別にいいじゃん、小さい頃はしょっちゅう繋いでたじゃん」


 「生憎、もう大人の一歩手前なんでね」


 俺は無理やり腕を解く、解こうとしたがヤツの力が強すぎて振りほどけなかった。


 「それじゃあ行こっか!」


 「……」


 


 



 「映画楽しかったね! 大賢者アーロイが勝てないと分かっているライバルに愚かにも立ち向かう所に胸がキュンときちゃった!」


 「確かに、アーロイは勝てない相手に何回でも立ち向かう馬鹿みたいな奴だったな」


 魔法において競い合う相手がいないアーロイだが、とある剣士に彼は一向に勝てないでいた。


 だが、大賢者であるアーロイは何故か諦めることなくその剣士に立ち向かい続ける。 そんな愚かな主人公の無駄を積み重ねた話だった。


 ……でも、何かアーロイには感情移入したんだよな。 馬鹿で無駄を積み重ねる俺とは真反対の男の話なのに。


 「今日はありがとね、あっ君!」


 「……久しぶりだな、その呼び方」

 

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