第4話 引き立て役と英雄


 「奴に反撃の隙を与えるな!」


 学園の教師や生徒が絶え間なく空中に居る一人の魔族に向かって魔法を放ち続ける。


 「甘いな」


 だが、一向にその魔族は倒れない。 それどころか体に一つも傷跡すらない。


 魔族が軽く腕を振る。 それと同時に辺り一帯をまるで嵐の様な突風が吹き荒れ、応戦していた教師たちが校舎の壁や地面に叩きつけられる。


 「なんて強さなんだ…」


 圧倒的な実力の差。 たった一つの魔法で戦況がひっくり返るその状況に皆の心が挫けそうになる。


 だが、そんな状況の中で俺は魔力を練っていた。


 「……派手さを意識した火の最上級魔法、それで華々しく奴を葬り去ってくれる!」


 もう少し、あと少しで魔法が完成し奴を消し炭にする。


 「よし、これで俺が英雄に────」


 しかし、その直前に一人の制服を着た少年が魔族を吹き飛ばす。


 「ごげぼぉぉぉぉ!?」


 それは跳躍してからのパンチ。 地面という支えもなく腰も入っていない軽いジャブの様なものだった。


 しかし、そんな軽い一撃は皆を絶望に叩き落とした魔族を軽々と吹き飛ばした。


 魔族は暫く直線状に吹き飛び、最後にはギリギリ目視できる程遠くにある建物の壁にめり込んだ。


 そして少年はぐったりとしている魔族に向かって吠える。


 「命までは取らない、去れ!」


 それに対して魔族は先程とは同一人物とは思えないほどに震えており、まるで機械のように首を上下に振っていた。


 「速く去れ!」

 

 更に追い打ちをかけるようなトウカのドスの効いたその言葉にビクンと震え、必死に背中の翼を動かして学園をフラフラと飛びながら去っていった。


 「魔族は去ったのか?」


 「ほ、ほんとうに?」


 「ええ、脅威は学園から去りました」


 その自信に溢れたトウカの言葉に、学園中の教師や生徒が歓喜の声を上げた。


 「ありがとぉぉぉ、死ぬかと思ったよ」


 「もうダメかと思ってた!」


 「学園の英雄に感謝だ!」


 「しっかり写真は撮った? 明日は凄い記事になるわよ!」


 「流石トウカ、やってくれると思っていたぜ!」


 

 俺は彼らの喜ぶ姿を遠く離れた場所から眺め、静かに魔力を沈めて手を降ろす。


 「……またかよ」


 頬には涙が伝う。 どうしていつも同じ展開になるのかと。


 「あの戦いで死者が出ないようにしていたの、俺なんだぜ」


 バレない様に魔法などをこっそり使って魔族の弱体化や回復魔法の行使、一人一人の生徒に合った支援魔法。


 他にも色々頑張った。


 「結局こうなるのか」


 俺はポケットからハンカチを取り出し、静かに目元を拭うのだった。



 

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