第15話 淑女、開くは樽俎

一昨日と同じように会社に出向くと中にはたくさんの女性がおり、前回のような閑散とした雰囲気は無く、喧騒が場を包んでいた。

辺りをよく見まわしてみると、そこには見知った人も。

宮崎さんと冷雹さん。そして、神崎さんも。

すると彼女らは、こちらに気が付いたかと思うと、手招きをして俺のことを呼び寄せる。


「おはーようございます」

「あ!おはようっす!!」

「おはよう」


挨拶の仕方は三者三様だが、律儀に挨拶をしてくれる。

俺もそれに返答するように軽く挨拶をすると、宮崎さんの方から現状の説明があった。


「今から入社パーティーです!歓迎会ですよぉ~!!」


どこかハイテンションな宮崎さん。

───

まぁ...目に見えて分かりやすい人が宮崎さんってだけで、他のみんなも少しは楽しそうにしてるように見える。


「で!!ですよ!!、神吉さんは本日の主役メインディッシュなので、後でみんなの前で自己紹介お願いします!」

「あ、了解です」


軽い会釈で、分かったと告げる。

だが、自己紹介...って何を言うべき!???

学生時代ならまだしも、大人、社会人の自己紹介って何を言うべきだろう...

名前、年齢...それから?好きな食べ物?趣味?特技?何?何を言ったらいいのぉぉぉ!!???


頭の中で奇抜なアイデアが生み出されたりもするが、どれも少し足りない気がする。

例えるならば、麦わら帽子の無いル〇ィみたいな感じ。

でも、ルフ〇さん、あのシャン〇スから貰った帽子なくても強いしなぁ...

あ!!そうだ!!強さ!!!魔法とか見せつければいいんだ!!

これでやっと〇フィさんは、シャ〇クスから帽子を預けられそうですね!!

やったね!


こうして組み立てられていく自己紹介文。

かなり奇抜な自己紹介になりそうだが...



「では、自己紹介まであなたの存在を隠しておくために、奥のスペースに連れてきますね」


そう言って連れてかれたのは、壁がすべて灰色の倉庫みたいな場所。

一応部屋のようにはなってるが、防音対策は微塵もなく、環境音や話し声がよく聞こえる。

もし住むとしても、住みたくない部屋トップ5には入りそうな部屋だな...。



¥&¥&






そんな部屋に連れられ、自己紹介を組み立て始めてから、大体20分ほどたっただろうか...

外の方でひっきりなしに鳴っていた足音はいつの間にか消え、乾杯の音頭などが聞こえてくる。

多少の寂しさも感じつつ、組み立てに没頭するとドアの外から


『それでは、本日の主役の登場です!!』

『神吉さーん!!』


と呼ぶ声がする。

すると、その声に反応したかのようにドアは急に開き始める。


その現象にビビり上げていた神吉だったが、神崎さんが現れる。


「じゃあ行くっすよ!!主役はアッチっす!!」


指をさされた方をちらりと見ると、会場入り口と書かれた紙が置いてある入り口を発見し、そちらの方へ歩いていく。

かかってあった暖簾をくぐり、会場を見渡す。

眩しいほどの照明と、たくさん置いてある飲食物。


(金かかってそうだなぁ...)


と考えてしまうのは、精神年齢が大人になってしまったからだろうか。

すると、その光景にマイクが闖入してくる。


その出所を見ると、宮崎さんの物だった。


「それでは、自己紹介お願いしますね」


という声と共に、宮崎さんは後ろに下がっていく。


「あー、あー。んん”ゥん」


一つ、定番のような咳払いを添え、自己紹介を始める。


「えー、皆さん初めまして。神吉悠人です」

「主に皆さんの育成と、配信を任されました」

「歳は22です」

「で、他に紹介することも無いので、魔法でも見せつけようかなと思います」


魔法を見せつけるという声に、少しざわめきが生じるが気にしない。

だって、これ以外紹介出来ることがないんだもの...


そして俺は詠唱を始める。


「【空間亡き物に】【時空生みし物に】【時に飢える迷い子よ】【救済は始まった】」


「【果てなき時への欲望エンドォズツァェト】」


発動される魔法。

今は実践でも何でもないし、攻撃する必要とか、【空虚な世界へとシーシュポスファンノウ】を使う必要もないだろう。

そう思い、今俺のいた場所から、ちょうど真反対の場所へと歩く。


ゆっくりと歩き、そろそろ着くか、という頃に魔法を解除する。


急に目の前に現れた男に女性たちは驚きを隠せず、思わずしりもちをついているが、そのまましゃべりだす。


「あと、6つぐらい魔法使えます」

「よろしくお願いします」


丁寧にあいさつを残すと、大きな拍手が巻き起こる。

その拍手を受け、無事成功したことに喜び、自分の魔法に最大限の感謝をするのだった。





───




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