第14話 いやー...そりゃね?あんだけ無双してたらバズるよねッ!!

少々暗い雰囲気だったダンジョンから抜け出し、日の光を浴びる。約2時間ぶりぐらいとなる日光に、心なしか気持ちよさを覚え、睡眠欲が出てきてしまう。


(絶対今までの俺だったら、直帰して睡眠決め込んでたな...)


そうある程度の冒険者になると、時間にとらわれることはない。

新米冒険者だと、朝から晩まで働いてやっと日銭が稼げる程度だが。

世間一般的に言われている中層、という域まで上がれる冒険者であれば、適当に稼いでおけば結構どうにかなるもんだ。

そのため、独自の生活リズムを築いている輩も多く存在し、深夜帯にダンジョンに向かう生活リズムの悪い冒険者もいれば、早朝に向かう生活リズムの良い冒険者もいる。

まぁ...たいていの上級冒険者は、昼起床。それからゴロゴロorダンジョンに向かう人が多い。

まぁ、ニートみたいな生活をしてるやつがほとんどだ。


(それでも年収が軽く1000万超えるんだから不思議だなぁ...)


彼はすこぶる強いので何も思わないが、普通の人は毎回命懸けでお金を得ているわけだから、それくらいの年収がないと割に合わない。

又、上級冒険者に上り詰める前に死んでしまうという事例も少なくない。

冒険者協会もなるべく死者を出さないように情報の伝達や、基礎訓練場の貸し出しなどをしているがどれもあまり効果は出ていないように見受けられる。


「え!あ...!?」


宮崎さんが携帯をいじっていると、急に素っ頓狂な声をあげる。


「なに?どうかしたの?」


俺の心を代弁して冷雹さんが宮崎さんに問う。


「いや、これ!これ見てください!!」


そう言って俺たちに見せてきたのは、スマホのツイックスのトレンド一覧。

そして、そこのランキングの一位の場所に俺の名前がデカデカと記載されていた。


「バズったんですよ!!私たちの配信が!!」


そういわれて、ネット上でどんな評価をされているか気になった俺は、自分の携帯をポケットから取り出し、自分の携帯の中にあるツイックスを起動する。

起動して、最初に目に入って来たのはおびただしいDMの数とフォロワー数だった。


(始める前に見た時が1万...で、?今は80万...。は?)


配信を始める前と大きな差だ。

DMの数も200万を超えている。


DMのほうをちらりと一瞥すると、企業の案件だったり、ただの誹謗中傷だったり、心優しい応援コメントだったりと、多種多様。


そんな俺の携帯を覗いてきた冷雹さんが、一言。


「社長?神吉さんのDMがオンになってるわよ?」


からかっているのか、なんなのか、少し嫌味っぽく歯がゆい[社長]なんて単語で、宮崎さんを呼ぶ。


「くっ...貴方に指摘されるとは...一生の不覚...」


こちらもネタに乗っているのか、全然悔しそうではないのに、拳を握り、冷雹さんに目を向ける。

そんな会話を小耳に挟みながら、俺はDMの受け取り設定をOFFにする。


(配信者ってこういう細かい所まで気にするのか...結構大変だなぁ...)


どこか他人事のように思ってしまう。



──まぁ、無理もない話だろう。なにせ配信者デビューしてからまだ1日しか経っていないのだ。冒険者としては上級者どころか最強なのに、配信は初心者。彼もまた、人間であるということだ...


─完璧な人間などいない。この世は長所と短所によって成り立っている─


彼女たちはまだ少しいがみ合っているので、#神吉無双のコメントを見ていく。


#神吉無双 

やべぇよアイツ...人じゃねぇよ...


#神吉無双

え、この人、ブラッディブラッキィソロ討伐ってマ?


#神吉無双

生配信見てたけど凄かった...(小並感)


#神吉無双

アイツ、最強だけど俺らと同じ陰キャなんだよなぁ...



ほとんど書いてある内容は配信中のコメ欄と同じ感じだが、アカウントのブロック等が本格的に動いていないので、アンチコメントも見受けられる。


だが、そのリプ欄全てに、「お前...切られるぞ...」とか、「お!死んだな!乙!」みたいな茶化すコメントがついているので、そこまで荒れていないように見える。


(誹謗中傷...ネット上ではよく聞く単語だが、実際にされるとどうなんだろう...ま、最悪どうとでもなるか)



リプ欄に一区切りをつけ、再び彼女たちのほうを見ると、ケンカはひと段落ついており、小言で何かを話している。


「あー、もうわかりました!!頭でっかちなあなたには、会社で直々に𠮟るとしましょう!」

「うけてたつわ」

「あ、ということなので、神吉さんは直帰で大丈夫です!明日からは、AM10:00ぐらいに出社してください!」


俺のことを忘れていなかったのか、必要連絡事項を手短に話すと直帰を命じられる。

この後、二人で御大層なお話があるらしい。


「では、失礼しますね」と別れの文言を忘れずに言い、家に帰る。


その足取りはどこか軽く、元気なものだった。


(晩飯どうしようかな...)


(風呂入りたいな...)


なんてごく自然の事を考え、電車の駅に向かうことにした。






────


追記:ツイックスはTwitterみたいなやつです。TwitterとXから取ってます。

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