第13話 史上最強の魔法───

魔法鑑定士曰く、人の身に扱える物ではない。

曰く、古代、神の魔法。

曰く、使いすぎると、時との境界線が無くなる。

曰く、────────



「【果てなき時への欲望エンドォズツァェト】」



───俺の魔力属性は時。


時を操り、事象を捻じ曲げる。

要するに、魔法発動中は俺への攻撃は当たらないし、俺が動く瞬間は誰にも見えない。


まぁ...もっと上手く使えばいろんな事が出来そうだけど..


使用時は誰も何も無許可では動かない──いや、動けない。知覚も無理。

俺が触れた───つまり、許可した物のみが数秒動ける。


世界は白黒。

周りには幻覚なのか何なのか、沢山の懐中時計が回っており、現実の時の進みを教えてくれる。

秒針の音はない。


「誰にも見えない。誰にも分からない」


声は通り、空気の波長と鳴って現れる。

だが、停止した時の中では返答してくれる人など誰もおらず、白黒の世界が無情に見つめてくる。



魔法を使うと何時もこうだ。

虚しい。悲しい。

一人の弱さ。人との繋がりの強さを確認できる。


人に大事なのは、力でも、言葉でも、心でもない。

一番大事なのは、そこに生きる勇気。

心よりももっと奥深く。人間として生きるという強さ。生から逃げないという強さ。


頭は透き通り、眼の前の光景をありありと教えてくれる。


敵は1体。認識不可で、モンスターらしき鳴き声。

移動は速く、不意打ちであれば防御も難しい。


───ってところだろう?

───全く問題無い。


「時は止まっているんだ」


認識できない以上、一箇所一箇所探る事になるが、流石にそれは面倒くさいので、重ねてもう一つの時魔法も放つ。


「【理 捻じ曲げし】【倫理 抵触し】【理念 否定し】【神 成り代わり】【現神人 到る】【幻 縋り】【救世 諦めし】【絡まり 交わる】」


「【空虚な世界へとシーシュポスファンノウ】」


時を圧縮し、放つ。

無意識下で当てられたソレは、細胞を老化させ、ありとあらゆる物を朽ちさせる。

回避方法は無し。絶対的強者が扱うソレは何者よりも疾く、重い一撃となる。


大きな爆発音と共に、何も無い空間にあたる。

その瞬間敵は現れ、数秒動いたかと思うとまた停止し体だけが朽ちていく。


数秒経過すると体が灰となり、皮膚が剥がれ落ちる。

肉、内臓も同様に腐敗し、灰となり地面にヒラヒラと舞い落ちる。


最後には骨格だけが残り、その骨もカラン、と言う音ともに崩れ落ちる。


敵の消滅を確認すると、時は再び動き始める。


再始動Re:start


魔法解除の文言を告げると、世界は再び色づき懐中時計は消えていく。

先程まで石像のように固まっていた彼女達が動き始める。

目の前には骨数本と灰、そして俺。


立っていた彼女達が一同にペタリと床に座り込むと、多少のタイムラグがありながらも、現状把握に努めようと周りをぐるりと見渡す。

先程とはまるで───とまではいかないが、危険分子が排除されている状態を見て、大きく声を上げる。


「「!???」」



差し詰め、声にならない声を絞り出している様に見える。

彼女達から見れば、敵が急にいなくなったのだ。

それで驚くな。と言うのは少々酷な話があるだろう。


「な、何をしたの?」


冷雹さんから漏れる声。

顔には冷や汗が尋常では無い程浮かんでおり、まるで得体のしれない何かと出会ったみたいになっている。


「な、何をしたんですか!!?」


宮崎さんから溢れる声。

コチラは、先程の声とは対象的に、大きい声。

顔には疑問しか書いておらず、冷雹さんのような恐怖感は抱いていなかった。


「時を止めた」


何故か敬語をつける気になれなかった俺は、淡々と事実を告げる。

小さく、だが、よく通る声で。


「それだけ」


そう、時を止め、攻撃しただけなのだ。

彼は軽々しく告げているが、その能力は常人には理解の及ばないもの。


「時...。物理的に?それとも...?」


呂律が回らなくなっていた冷雹さんの代わりに宮崎さんが質問してくる。


「魔法」


隠す気も、威張る気も無いらしい彼は、前言と同じように淡々と話す。

幸いにも質問は1つずつ。

答えやすい。


怯えきっている冷雹に手を差し伸べながら、再び質問の呼応をする。


「因みに...属性は?」

「時。」


今までに聞いたことのない属性に耳を疑いながらも、今起きた普遍の事実を前に、信じる事しか出来なくなる。


「魔法名は?」

「【果てなき時への欲望エンドォズツァェト】」

「聞いたこと無い魔法ですね...」


首をかしげ、頭の中の記憶を必死に辿っているが、彼女がどれだけ博識でも、この魔法は知らないだろう。

何故ならこれは、俺自身があくなき探求心────いや、過去を変えようと思っていた時に開発された副産物であり、これを知っているのは、俺の親友の魔導鑑定士だけだからだ。


「ま、いいですよ。そこら辺は!じゃあ、帰りましょうか!敵も倒された事ですし...」


宮崎さんは冷雹さんの手をぐいっと引っ張り上げ、無理矢理立たせると、彼女と手を取りながら歩き出した。

少々気まずい感じになってしまったが、流石に付いていかない訳にもいかないので、俺も後から追う形でついて行く。


「はぁ...疲れた...」


冒険者の少ないダンジョンには、そんな声だけが響いた。



────


1万PV感謝です!これからも描いていくので、高評価やコメント貰えると嬉しいです!(露骨な乞食)

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