第12話 人ならざる者との邂逅

ミノタウロスがいる階層のドアの前に立つ。

静寂が場を包む中、扉を開ける音と、3人の足音だけが響く。

錆びついたドアは軋んだ音をあげ、いつ壊れてもおかしく無いような相貌をしている。


一歩。また一歩と中に入って行くと、違和感を覚えた。

いつもはうるさい程に吼えている敵がいないのだ。

筋骨隆々な赤い体がどこにも見当たらない。


「先に誰か来て倒されたんでしょうか...?」

「どうですかね...」

「でも、前に冒険者はいなかったように思うのだけれど」


BOSSモンスターには、産胎期間インターバルがあるため、そうポンポンとBOSSモンスターは創れない。

だが、特例時に限り産胎期間インターバルを超克する場合もあり、その期間はあまりアテにならない。


神吉達が辺りを見渡すと、赤い血痕が目に付く。

それは丁度階層のど真ん中に位置しており、まるでリスポーンした後、即狩られた様だった。


「血痕......?ミノタウロスのかしら?」


冷雹は落ちている血をなんの躊躇いも無く手に取ると、顔の近くにまで持っていき、観察する。


「コレ、人の血じゃないわ」


血のついた手を大きく振り、血を飛ばしながらこちらに報告してくる。

どこの要素から血ではないと判断したのかは分からないが、一目見たときから人の物では無さそう。と検討をつけていたので、何も言わず受け入れる。


「あ、冷雹、またそんな汚くして〜。こっち来なさい。ハンカチで拭いてあげるから」


宮崎さんのその姿はまるで姉のよう。

てことは冷雹さんはさしずめ妹か。


母親っぽく見えたり、妹っぽく見えたり、姉っぽく見えたり子供っぽく見えたり忙しい人達ですね......


「ん?何です?あれ」


宮崎さんは、何もいない前方を指す。

目を擦り、再び見直すが何もいない。



「何も────!!!」


足音。

コチラに駆けてきている。


姿形は見えないが、足音と、不自然に動く砂が相手の位置を晒してくれる。


「右前方。さっき宮崎さんが指したところです。危ないので念の為────」

「か、神吉さん!!!!!!」



右からナイフが生えてくる。

───が、頭をそらし、華麗にとまではいかないが回避する。

透明化している人間に敵意があることが分かり、一手遅れながらも反戦にでる。


相手の攻撃を見切り、紙一重で躱す。


相手のナイフの性能や見た目が分からない以上、触れることはあまり得策だとは言えない。






────てことは、魔法の出番。




ファンタジー世界の定番、魔法。

体内に血のように流れている魔力を体外に放出する技術。魔力は色によって放てる魔法の属性も変わる。


青色は水。黄色は雷。赤色は炎。


一般的に多いのはこれくらいだろうか。


だが、俺の魔法は少し変わる。


俺の魔力の色は白。

真っ白なのだ。


最初は何の属性か解らず混乱したが、今では使いこなせる。


「ギュアァ!」


ナイフが当たらない事に苛立ちを覚えたのか、先程まで潜めていた声を大きくあげる。

その声から察するに、モンスターと見ていいだろう。

姿が分からないのでなんとも言えないが、人ではない事は確かだ。


「神吉さん!!!大丈夫なの!!!?」


冷雹さんも慌てて声を掛けるが、心配には及ばない。


「大丈夫です!」


と、一言返し、魔法の準備を整える。


感覚としては、目玉を動かすように体内の魔力を動かし、一点に収束。

それを少しずつ体外に排出し、今回ならば手、右手の外側に貯める。

そして、詠唱。

魔力のコントロールと威力をあげる為におこなうもの。

最後に、魔力で纏う。

魔法のは、高威力の分、散乱しやすい。

なので、魔力で覆い、放出する箇所を一点に絞る。


例えるならば、ホイップクリームを絞り出す感覚かな!


「じゃ、そろそろ死んでもらうね」


死の宣告から、コンマ3秒後、神吉悠人のオリジナル魔法が放たれる。


「【空間亡き物に】【時空生みし物に】【時に飢える迷い子よ】【救済は始まった】」


敵の攻撃を避けながら行われる並列詠唱。

比較的短文な詠唱だが、その効果は絶大。


「知覚すら出来ず、死んでゆけ」

「儚きなど無いその命、散らせてみせよ、大華を」


「【果てなき時への欲望エンドォズツァェト】」


ここに最強は降り立った。








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