第10話 最強の片鱗と相対す。

それでは───と言った途端、前方に枯れた血のゴブリンブラッディブラッキィが現れる。

このモンスターはゴブリン系統の中でも上位種で、特筆すべき点は、恐るべき身体能力の高さにある。

生まれつき、一本の大剣を持っており、ブラッディブラッキィは全員剣豪か、それ以上。

このモンスターを一人で倒すのは中々に骨が折れる。事実、コイツをタイマンで倒せるやつなど、そうそういない。


それを知ってか知らずか、このモンスターは人を見つけた瞬間に血相を変えて斬りかかってくる。


今眼の前に現れたやつも例に漏れず、コチラに斬りかかってくる。


素早くこちらに近寄っているモンスターを見守っていると、宮崎さんも俺の方に近寄ってくる。


すると小さな声で


「すいません、あのモンスター、タイマンで倒せますか?」


丁寧に聞いてくるということは宮崎さんもアイツの強さをよく知っているのだろう。


「はい。問題ないですよ」


宮崎さんは俺が断るわけないと信じていたのか、俺が頷くと、スッと身を引く。


「では、画面の前のみなさ~ん!この神吉さんが、あのゴブリン最強種と噂のブラッディブラッキィをタイマン討伐してくれるらしいでーす!」


宮崎さんがドローンに近づき、大きな声で堂々と宣言する。


冷雹さんは、俺の一挙手一投足をマジマジと見ていて、配信のことなんて頭の片隅に置いてるようだった。


:これ、やられてしまいました〜。惜しかったですねぇ〜。っていうオチやろ?

:今北産業

:新人は男

ファンちょい萎え

男、ブラッディブラッキィ討開始。

:でも、ここ、国内でも最難関の広島ダンジョンでしょ?出来たら相当なバケモンな希ガス...

:出来たら、な?


チラリと振り返り、コメント欄を確認すると、多くの人は、倒せないと思っているらしい。


まぁ、戦闘してるところ見せたことないから当たり前だよね。


至極当然の考えだと思う。

逆に人から最強と言われただけで、それを鵜呑みにするのはどうかと思う。


「では、お願いします!」


その声が戦闘開始の合図だった。


気づけば敵は眼の前。

相手の生まれ持った武器の範囲内。

勿論、そんな隙を見逃す相手でもなく、一刀両断と言わんばかりに、腰辺りに斬りかかってくる。


ダンジョンの壁の色と同じ、茶色の石で出来たような剣。刃は鋭く尖り、あらゆる物を切り裂く。


回避する時間もない。

脇差しを出す時間もない。


後ろからは、「え?もしかしてピンチ?」

なんて声も聞こえてくる。


───こんなものはピンチになり得ない。


俺はそう思い、腹に魔力を貯める。


魔力とは、いわゆる魔法を放つ素材。エネルギー。

一点に収束させれば個体のように変形し、固くなる。また、薄く広げると弾性をもち、スライムのような感じになる。

そして、人間の体内にある魔力回廊を通り、体外に放出させる。


───ここまでは一般常識。

だが、魔力を放出せず、体内の一点に魔力を貯める方法もある。

体内の魔力を感知し、出来るだけ欲しい部分に集める。この時に注意するのが、体内に魔力のない場所を作らない事。魔力のない場所が現れると、急激な疲労感、そして、今まで貯めていた魔力が、自分の意志とは裏腹に、魔力が不足しているところに自動的にいってしまうのだ。


───腹からはカキンッ、というまるで金属と金属がぶつかり合うような甲高い音が聞こえる。


この音には、この場に居合わせたブラッディブラッキィを含め、誰もが信じられない事を見たような顔をしている。



「グギャァ!!」


ブラッディブラッキィは、再び声を荒らげながら斬りかかってくる。


「無駄だよ」


冷酷に告げる事実。


───だが、事実なのだからしょうがない。

いくら俺が斬られようが、魔力でガードしてしまえば問題無い。相手が双剣使いだった場合はちと厳しいが、相手は剣の中でも大剣の部類に入りそうな大きな剣。手数ではなく、一発の火力重視の攻撃方法。


だが、相手は諦めない。



再び、一撃。


受ける。だが効かない。


再び、一撃。


受ける。効かない。



いいだろう?そろそろわかっただろう?


モンスターに人語は通じない...はず。

だから、言葉には出さず、心の中でボソッと呟く。


だが、ゴブリン側もやっと理解したのか、自分が生まれつき持っている大剣を捨て、拳で殴ってくる。


───いい判断だと思う。


それならば、と思い、俺も脇差しを収め、拳で応答する。


拳と拳が交わる──────はずだった。


神吉の放った拳は、何もない空間にぶつかる。


相手は、神吉の拳の真空波だけでやられてしまったようだ。


つまり、神吉が繰り出す拳もスピードが速すぎたのだ。


「さて、終わった終わった」


地面に落ちている小さな魔石を拾い上げ、宮崎さんと冷雹さんが居るところまで歩み寄る。


「あ、これ魔石です」


先程のバタフライロックを倒した時と同じ様な事を言い、宮崎さんに魔石を渡そうとする。


手の中にある魔石を渡そうとしても、何も反応がない。

宮崎さんも冷雹さんも、固まっている。


───どうしたのかな?


そう思い、コメント欄を見ると、称賛と喝采の嵐だった。


:人外!人外やってこれ!

:ゴングラッチュレーションズ。ブラザー

:はへぇ...やばすぎて草

:人外すぎるだろwww

:最強最強って言ってからどれ程かと思ったら、くっそwww

:すごい(小並感)



良かった。実力はしっかりと見せられたようだ






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