第9話 ダンジョン配信を開始します。

俺は脇差しを懐からだし、抜刀する。

対して強い相手でもないので、本気でぶった切る必要もきっとないだろう。


「ね、ねぇ大丈夫なの?」

「ん?何がですか?」

「か、彼よ。あれだと、鱗粉が体に付着して直ぐに石化ゲームオーバーだわ」

「ふふ」

「な、何を笑っているの!?」

「いや、貴方が他人の心配なんて珍しいな。と思いまして」


冷雹と神崎は旧知の仲だ。

それこそ幼稚園などの時代から。

この会社を立ち上げた時の第一社員は彼女だったし、この会社を立ち上げよう、と私に持ちかけてきたのも彼女だった。


少々冷たく───冷静な彼女冷雹と、とても明るく───感情的な彼女宮崎

馬があったのは、その対象的な性格の違いからなのか、はたまた旧知の仲だからなのか。


「でも、大丈夫ですよ。彼は多分強いです。会社の誰よりも、ね」


宮崎も含めて、神吉の実力は誰も知らない。だが、ワイバーンの魔石を持っていたという事実。そして、ワイバーンは、この最恐ダンジョンと恐れられている広島ダンジョンの80層BOSSであること。

この事を加味すれば眼の前にいるなど、瞬殺だろう。


「明確な理由が無い相手に信頼を置くなんて──」


貴女らしくない。

と言いかけた時、眼の前の蝶はいなくなっていた。

───綺麗に魔石だけを残して。


魔石が地面にカランと落ちる音が聞こる。

──だが、その後に言葉を紡ぐものはいない。


宮崎は、最強だとは信じていたが、まさかこれほどとは予想できずに、眼の前の光景をただ傍観している。


冷雹は何が起こっているのか全く理解できず、宮崎に説明を要求する。


「こ、これは一体!?な、何が起きたの!?」

「し、知りませんよ!大体、私はあなたよりも弱いのですから、あなたが分からなければ、私だにだって解りません!」


口ではこう言う宮崎だが、実力は似たようなもので、扱う武器エモノが違うだけ。


冷雹は、前衛の双剣使い。

宮崎は、後衛の攻撃魔法使い。


近距離攻撃を主に使う人と、遠距離が主な人が戦えば、場所や環境にもよるだろうが、近距離が勝つだろう。


あーだこーだ言い合っていると、歩きながら神吉が戻ってくる。


「あ、これ魔石です」


そう言って魔石を神埼の方へ軽々しく放り投げてくる彼に少しの驚きを感じ、先程の疑問をぶつける。


「「さ、さっきのは一体...?」」


どうやら聞きたかったのは宮崎だけではなかったようだ────まぁ、当たり前か...

当然の疑問。


「あー、あれですか。あれ初見だとびっくりしますよね〜。あれは、魔石をくり抜いて、後はその体を細切れにぶった切るだけです」


───は?


─────────今なんと?




要するに彼は、あの小さな脇差しで、蝶の鱗粉飛び交う間合いに侵入。

そして、魔石をくり抜き、体を千切りのように細切れにする。


...千切りのようにではなく、本当に千回切るのかもしれない...

魔物の体は、体のから魔石を外してたとて体は動かなくなるが残る。魔石を壊せば体は灰のように消えるが、魔石は貴重な収入源なので、本当に死にそうな時以外で壊す人はそうそういない。


─、その体を肉眼では見えないほど斬る。

恐ろしい程に人間離れしている。

これを私達と同じ人間で決めるつけるのは、いささか無理がないか?


「でも、特に意味は無いです。だって魔石を抉り取られた魔物はダンジョンに還りますからね。あ、簡単だから、頑張れば誰でも出来ますよ」





────彼女達は考えるのをやめた。




¥&¥&




ダンジョンを登り、5層にたどり着いた頃だった。


「では、そろそろ3時ですし、配信開始しましょうか」

「準備はいいですか?神吉さん。陽耀」


宮崎は真正面にいる二人のために、配信を開始する。


自分のスマホを出し、手短に配信待機者が何人いるか確認すると、その数約15万人。

新規のLiverが来るとなってたくさんの人が集まっているのだろう。


二人が静かに頷くと、宮崎さんが、「3,2,1,」

と合図をだす。


「それでは、スタート!」


というと宮崎さんが走ってこちらに向かう。

それをただ眺めていると、挨拶と前口上が始まる


「はーい!皆さんこんにちわ~。今日はね、新しい超強〜い冒険者さんが新しく入社してくれました!」


その声で、後ろに投影してあったコメント欄は素早く動き始める。


:新しい配信者にワクワク!

:男の新しいヤツだよね。なんか萎えるわ

:萎える。今まで、女の子しかいなかったから見てたのに...

:萎えてるやつ多すぎて草。俺はホモだから一向にかまわんッッ

:多分ここにいる奴ら皆陽耀ちゃん目当てでしょww


ワクワクしてくれてる。

萎えてる。

萎えてる。

ホモだ。うへぇ...

まぁ起爆役だからおっけ。


「では、紹介しまーす。神吉 悠人さんでーす」

「あ、どうも...紹介してもらった神吉悠人です」


:なんか俺らとおんなじ匂いがする。

:お!?陰キャか?陰キャだよな!?陰キャだな!?

:いや、これハーレムじゃん。おい、そこかわれ。

:コイツww広島ダンジョンなのに装備つけてねぇwww

:おいおい死んだわあいつ。


「人の集まりは上々。ですが、うーん。やっぱりなめられてますね」


「今回もよろしく。陽耀よ」


手短に挨拶した冷雹だが、コメント欄は目で追いきれない程に加速する。


「はーい!お二人共ありがとうございます!」

「では、今から皆さんに手っ取り早く、神吉さんの力の片鱗をお見せしますね」


開始5分。どうやら出番のようだ







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