第6話 これからのお話①

歩き続けていると、指定された会社までたどり着いた。

見る感じ、5階建てのビルを2階借りており、受付は一階にある。

自動ドアを開け、中にいる女性に話しかける。 少しウトウトしていた女性はコチラが入ってきたことに気づき、乱れていた姿勢を綺麗に正す。




「ん...ハッ!な、何でしょう!お客様!」


急に人が来たことに驚いたのか、大きな声を出して接客をする。


「いや、面接に来たっていうか、なんというか───」


そこまで言いかけて、先日宮崎さんに言われたことを思い出した。


『受付の方で神吉さんの名前を言ってもらえれば大丈夫です』

(あぁ...そういえばそうだったな) ──


一度閉じた口を再び開き、自分の名前を語る。


「自分は、神吉といいます。神吉悠人です」


何故か少し緊張してしまった。会社の面接をしているみたいな気持ちだ。鼓動が早くなり、いらない冷や汗もでてくる。 喉が少々乾き、唾液を欲するようになる。 女性の目を見つめていた目も、時が経てばどこを向いてよいのか分からなくなってしまい、思わず目をぐるぐると回してしまう。


「ん?あ、あぁ~!神吉さんですね!入社を歓迎します!」


入社...まだ決まってないと思うんだけど...まぁ、絶対に受かるって確証があるなら、多少なにかやらかしても大丈夫だね。


「ありがとうございます。それで、社長はどこに?」


歓迎されたのなら素直に受け取っておくのが礼儀というものではないのではないだろうか。 ──まぁ、礼儀かどうかは知らないが、無愛想に接する理由もないので、良い感じの接しておく。


「あ~、社長ですか?社長なら多分、2階の廊下の突き当りの奥です」


多分ってなんだ多分って。 さっきからこの人少し曖昧というか、なんというか、大丈夫? 主に情報の取り扱いとか... 自分が細かすぎるだけかもしれないが、会社としてそこはキッチリしといた方がいいと思う。


「あ、わかりました。では、失礼しますね」


多少思うところはあったが、顔に出して何かあったら嫌なので、口を閉じ、必要最低限の会釈だけしてから入ってきた自動ドアの近くに置いてあるエレベータに乗る。 (2階だっけな) エレベーター内の2というボタンを押し、ドアを閉じる。少したばこ臭いエレベーターの中は何も装飾はされておらず、質素なものだ。オンボロの象徴の様な作動音が、エレベーター内に響き渡り、エレベーターは目的の階層に向かう。 多少の重力を感じながら高度を上げていく。 ガコン、という到着音とは違う音を出し、エレベーターは高度を上げるのをストップする。先程の音とは違い正式な到着音がエレベーター内に響き渡り、ドアがゆっくりと開いていく。 目の間に広がる光景は、一階となにも変わらない。しいて変化があるとするならば、受付がないぐらいだろうか。


(さて、突き当り...だったよな)


受付がなく、廊下が一番奥まで繋がっている。中心に廊下があり、その左右に小部屋があるような内装で、これといった特徴はない。ホテルとかの廊下と言ったら想像しやすいだろうか。 左右のドアを5つ程度通り過ぎた頃だっただろうか、突き当りのドアの目の前に辿りついていた。


(緊張するな...)


銀色のドアノブがついているどドアを数回ノックをし、相手からの返答を待つ。 体感では物凄い時間が経った気がしたがどうだろう。 緊張すると時間が長く感じるのはあるあるだろう。


「はーい」


長い時の終わりを告げる合図が鳴る。


「どうぞ。そのまま入ってきてください」


今までの廊下や受付とは違い豪勢な室内だ。 フカフカそうなソファー。渋い茶色の机。後ろにはとても高そうな、首周りに羽がついたコートがハンガーにかけられている。


「失礼します」


さながら舞台は面接。 どこからともなく現れる緊張感と、冷や汗。これは自分が多少のコミュ障を持ち合わせていることの証明なのか。それとも...なんなのか。 ───区切りが良いところで思考を切断し、


眼の前の宮崎さんとの対談に、意識をすべて向ける。


「では、立ち話もあれですから、どうぞ。お座りください」


神崎さんと対面に座るような格好に促される。 先程凝視していたソファーに座ることを促され、内心ちょっと嬉しかったりする。


「失礼しますね」



おぉ!フッカフカだぁ!なんだろう、なんていうのかな。まるで、動物の毛に包まれている、とでも言うのだろうか...表現が難しい程にフッカフカだ。いや、これは何かに例えるほうが無粋な気がしてきた。いや、これは絶対に無粋だ!無粋で間違いない! ────そんな事を思っていたが、顔には当然出さない。ポーカーフェイスってやつだ。


「では、契約内容の説明をさせてもらいますね」


というと、彼女は机の横に置いていたバックを持ち上げ、中身を漁る。 横目でちらりとバックの中身を見ると、綺麗に整頓されており、几帳面だということがヒシヒシと伝わってくる。


「では、コホン。始めさせていただきますね」


そう言うと彼女の怒涛の説明が始まった。

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