第2話 刀は強すぎるので、拳だけで倒そうと思います。
ワイバーン。それは飛龍の一種で、高いスピードから繰り出される体当たりは、常人を消し飛ばすほどの威力を持つ、それに追加で、遠距離攻撃である口から火を吹くことも可能だ。それは簡単に鉄をも溶かす高熱の炎。
口から少し溢れている炎は青白く光っており、今か今かと吐くタイミングを伺っている。
その赤い巨躯の体は鋼鉄の鎧を纏ったように固い。羽だけ見ても、人一人分
「おいっちにーさん、しー」
相手の炎は吐くタイミングを伺っているのに対し、神吉はというと...
「ごーろく、しちはち」
──優雅にストレッチをしていた...
「ストレッチは大事だからねー...この前、そのまま運動したら足首攣ったしなぁ...お兄さんも歳かなぁ......」
ワイバーンはストレッチをしている事を確認すると、炎を吐くモーションをやめて、自分の最大打点である高速攻撃にモーション変更する。口から漏れていた炎は引っ込み、その代わりに翼を大きくはためかせる。
「え?あ、ちょ、待って、あとちょっとだけ待って!あと、ジャンプして深呼吸したら終わりだから!待っ──」
野生のモンスターに、人間の言葉は聞こえないようだ。
2、3回大きく翼をはためかせると、こちらに向けて大きく低空飛行してくる。
音速にも届きそうなその速さ。軽々しくその速さを体が耐えているところを見ると、さすがダンジョンのモンスターと言ったところだろうか。
「グゥア!ギェェェゥ!」
ワイバーンがこちらに当たる寸前に神吉の深呼吸が終わったようだ。
息を大きく吸い込み、右手をワイバーンの進路状に差し出すと、まるで鉄と鉄がぶつかったような甲高い音が響き渡る。
「ふぅぅぅぅ、流石に腕が痺れるね...」
常人なら既に肉塊だろう。それを腕が痺れるだけで済ませているのは、流石冒険者と言ったところだろう。
痺れた腕を横に振り払うと、痺れていない左手でワイバーンに襲いかかる。
パンチ1発──、に見えてしまうような、連打の高速パンチを繰り出す。
パンチを受けたワイバーンは、大きな音を立てながらダンジョンの壁にぶつかる。ダンジョンの壁は決して脆くは無いはずなのだが、クッキーの様にボロボロと崩れる。
「1発で死なない相手って、良いよねぇー」
ワイバーンは既に瀕死で飛んでいることすらやっとの状態だが、力量差を我が身で感じた今、遠距離攻撃である炎のブレスを放とうとする。
口に溜めた青色の光は、どんどん輝きを帯びながら温度を上げていく。
「あ、待って待って、遠距離めんどいから封じるね」
そう言うと、ダンジョンの地面を力強く踏み締め、大きなクレーターを作り出しながら大きなジャンプ──いや、どちらかというとそれは飛行だった。まるで、空中で静止しているような長い滞空時間。高すぎる跳躍。それは、ジャンプと言うのには役不足だ。
「よっこいしょっ!」
ワイバーンの頭上を通り過ぎる手前で、拳を下に突き出し、下の炎を溜めているワイバーンの頭上めがけて下降する。
鈍い命中音と、ワイバーンの鳴き声が同時に響く。
最後に一際大きな咆哮と、体の中心にあった魔石を残し、体は散っていく。
「さてさて、この石ころ拾って帰ろかなー」
拳ぐらいありそうな大きな魔石を両手で掴み、転移用アイテム:逃亡魔法陣を貼り、迷宮外に出る準備を整える。
魔法陣が発動するには数秒待つ必要があり、この後する事について考える。
(自炊めんどくさいし、どっか夕食食べに行こ)
とか
(風呂掃除めんどくさいし、シャワーでいっか)
とか
そうすると、魔法陣が光りだす。眩しくて目を閉じる。
次に目を開けるとそこは、広島ダンジョンに入る前に見た門の前だった。
入る前と何も変わらない、と思っていたら一つだけ違う点を見つけた。
警備員がいなかった。
普通のスーパーとかの警備員だったら、休憩してるのかな?で済む問題だが、ここはダンジョンの入り口。つまり、モンスターが出てくるかもしれない場所。さらに言えば、ダンジョンの中で広島ダンジョンはトップクラスの強さを誇る。モンスターがダンジョンから抜け出し、都市の侵攻をを始めた場合、常人は当たり前に殺されてしまうし、並の冒険者でも勝てるかどうか怪しいだろう。複数で攻め込まれた場合なんかは、並の冒険者でも速攻でお陀仏だろう。
少し考えた俺はダンジョンの前にあぐらを描いて座り、警備員を待つことにした。
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