感想25『ひまわりの魔女』鯨雲 そら 様

 ■こんにちは、天音朝陽です。


 ……なぁ、少年。

 お前は一体、何に成りたいんだ。(第七話)


“薬師”の瞳が、少女に問い掛ける。

 あなたはこのままでいいの、と。(第十七話)



『ひまわりの魔女』

 作者:鯨雲 そら 様

 https://kakuyomu.jp/works/16817330652378157568


 ★読む人を選びに選ぶ作品です

 ★文学的な作品であり、作品の完成度は極めて高いと言えます

 ★後悔のない人生を。

 ■

 ほとんどの作品は私が作者さんにイチ読者として伝えたい第一の感想から伝えるのですが、今回は順番を逆に書きます。

 と、言いますのも この連載は作者さんの他にも『創作の参考』などの目的で訪問されている方もいらっしゃいます。

 そう言った事を考えて、作者さん・訪問者さん まずは両者どちらにとっても何らかのモチベーションにつながる内容を書いていきたいと思います。思うのですが……


 非常に私にとっては『超・問題作』でした。

 それは悪い作品という意味ではなく、様々な意味で心の傷をえぐるような『深い問い』を投げてくる作品だったという意味です。


 私の心を悩ますものであり、数多く持った感想の中で、どのような感想を選び出し、どのような表現で伝えるのか?

 言葉をろ過していく作業が必要であったというか、持ちえた感想のなかみが非常に難しい作品であったと言えます。


 抽象度の低い部分から感想を述べていきます。最終的に、あまりにも私個人の感想を書きます。

 ですので、創作論として何かのヒントを求めている方への参考としては、3の見出しの所ぐらいまでしか面白くないと思います。


 ここから先は、思慮を重ねたつもりですが、『何』を伝えるのが作者さんへの『私なりのベスト』なのか?を考えた上の文章であり、思いをそのままに伝えたのではない事はご理解ください。

 

 ■

 

 詳しく作品を見ていきますと、四部作の一部分とのこと。

 単体作品としてではなく、四部作の一部として見て感想を書きます。

 

 ■

 1


 物語、文学作品として非常に完成度の高い作品だと思います。

 私自身は編集者や評論家ではありません。

 ただ、

 ・現代日本の平均的な文章表現作品群からみた、その作品の持つ力

 ・作家さんがご自身の持つ背景から脳内に描いた像を文章に起こしていく過程

 つまり なぜその作家さんがその物語を描くか? 脳内のものを、人に伝えるための最も適した文章にして表せているか?


 ここを読み解く能力は、私自身は少なくとも天性のものがあると感じています。

(ただ、私自身の創作能力に反映されていないのが残念なとこですが)


 この『ひまわりの魔女』の作者・鯨雲そら 様につきましては、現在は粗削りですが、将来的に商業作家としての地位を築ける方だと断言します。


 断言する材料はいくつか言語化できますが、ここでは割愛させていただきます。


 ■

 2


 私自身、無料で作品を投稿できるWeb小説という分野は、流行りものが優遇されてしまい、どうしてもそちらにPVが流れてしまい、良作が埋もれてしまっている、良作をもっと沢山の人に読んで欲しいという思いがあります。


 ただ、この作品は個人の感想としては

 ・分かる人

 ・消費という形で物語を読まない人

 ・耐えられる人

 にしか読んで欲しくないという感想を持っています。


 1000人の有象無象に読まれるよりかは、10人の『それなりの感想を述べることが可能な人』に読んで欲しい。

 それが作者さんと物語が報われる形であると思います。


 このような感想をもつとは、自分でも不思議です。


 もちろん、物語としての面白さは十分にあります。

 ただし、文章や作者の意図を読み解く能力は必要で10万文字程度の小説を10冊ほど読破した人なら、その表面的な面白さは理解できると思います。


 ■

 3


 物語としての面白さ。


 魔法が存在する、中世ヨーロッパみたいな世界の物語です。


「魔女狩り」や「魔女裁判」や「異端審問官」という単語が登場しますが、「魔女裁判」についてはオリジナルの設定で語られています。


 <余談>私は個人的に「魔女裁判」などの響きに、非常な恐怖心を感じる人間でして、前世は火あぶりにされた魔女ではないのか?と若いころ考えていました。<余談終わり>



 私が感じ取った作品の本質から見ると、物語についての感想は些末なことなのですが、その作品の本質を構成しているのが物語ですので、妙な感覚をいだきつつ感想を書きます。


 文章表現は心理描写が密なのですが、繊細とか豊かとか、そういったものではなく生々しい抉(えぐ)るようなものに感じます。

(もちろん、一般的なアマチュア作家さんと比べるとはるかに繊細な描写です)

 そう言った点で、感受性豊かな人にとっては琴線に触れるものがあるかもしれません。


 登場人物は、実に役割が明確でありそれぞれに感情移入が出来るものでした。

 なぜに、それらの人物がそれぞれの主張を持つのか?が明確で、かつ互いに水と油のような相容れぬものという物語としても非常に引き込まれていくものがありました。


 それぞれが相容れぬだけに、それぞれの主張というものがあるのですが、個というものを持った上で主張と、個の無きものの主張というものが、それぞれに展開されてそこに興味深さを感じました。


 簡単に言うと『それは貴方の意見ですか? それとも貴方の所属するところ(時代、社会、組織、親など)の意見ですか? 本当に貴方自身はそう思っているのですか?』という問いですね。




 物語のなかに様々な伏線があり、私がいくつ気づけたか?は分かりませんが、それらの配置の仕方も面白くて「あ、これは多分こうなる奴だな」というものの出し方が非常に良かったですね。


 例)少年の母親がなぜそういう状態になったのか


 あと、これは作者さんと読んだ人にしか分からないと思いますが

 調整中の残り二人は、個人的に「獣遣い」と「ひまわり」で獣遣いの転がし方でハッピーエンドに持っていくのか?と予想しましたがそうならなかったのが残念です。



 □


『物語』として私が一番興味深く印象に残ったのは、獣遣いや異端審問官の変化でしょうか……。

 物語の面白さの本質(のいくつか)は「変化」や「葛藤」だと考えると、物語としては実に王道だと感じます。


 次に、これは大多数の読者さんがここで私と同じ感想をもつか?は保証できないという前提でお話しますが、以下が『作品』として私が一番衝撃を受けた部分です。


 それは「獣遣い」に名前があり彼の名がホルンフェロンテと初めてされた時になります。


 この一文だけで少女と少年と異端審問官やその他【名もなき存在】との対比が強調(つまり代名詞で表されるキャラ、とで表されるキャラが明確になる)され『個とは何か』『どこから、個は個となるのか』『(歴史を含めて)社会とは何か』を悟らされるというのか、まあ、ここは見事だなと感じました。


 *ネタバレになるので具体的には書きませんが、時間があり興味を持たれた方は作品をお読みになって、上記表現の言わんとすることを味わっていただきたい次第です。


 *「物語」と「作品」、ここの表現を変えている点にご注意ください。


 ■

 4


 作中の各キャラクターのセリフで語られる思想・人間観・幸福観


 このあたりも非常に無理なく、キャラクターを用いて問いにするような形でスムーズに語られていると思います。


「人間なんてどこか壊れていて当たり前、それが人間」

 と、どこかの映画で誰かが言っていましたが私自身も

「人間というのは、人との関係性において捻じれに捻じれ、社会のなかで壊されて存在している」

 と考えております。

 むしろ「直線的で、どこも修理の必要がない(ように見える)人間」こそがきわめて異常だと考えております。


 獣遣い、しかり

 異端審問官もまた、しかり

 少女もまた、しかり


 そういった部分が、上手くキャラクターを通して描かれていたように思います。



 鋭敏な思考能力をお持ちの方や、教師・医師を親にもつ方には非常に共感できる哲学・思想に思います。



 ■

 5


 このあたりから、私から作者・鯨雲そら さんへのかなり個人的な感想になります。ちと、作品の感想というより、作品を創った貴方への感想になります。


 まず、ここからは作者・鯨雲そら さんが、創作者としてもっと沢山の人にご自身の作品を読んで欲しいと思っていらっしゃる前提で書きます。


(おそらくですが、自己満足で終わるつもりはありませんよね?)


 □

 PV数というものが気になると思うのですが、私の正直な感想としては、さきほど少し書きましたように無料Web上にてPV数を集めるよりかは

 ・狙いをきめて新人賞に応募するとか

 ・それこそお金を払ってでも信頼できる創作者・もしくは編集者のかたの意見を聞いたほうがいい

 と思います。


 遠回りに見えますが、そうすることが将来的に「無料で貴方の小説を読む人」ではなく「お金を払って書籍を購入してくれる人」を沢山得ることが出来ると思います。


 *もちろん、Webに投稿するなという意味ではありません。言いたいことは、そのWebの評価は本当の貴方の評価ではないという事です。


 □□


 あと、これは本当に難しいところで、私は貴方に嫌われたくはないのですが正直に話します。

 私はこの物語が好きではありません。

 ただ、これは物語の完成度が低いとか、ストーリーが気に入らないとかそういったものではなく『表現の仕方が、私個人の思想と違う』という単純な価値観の相違です。


 ただ、好き嫌いをはっきり言われる作品はそれだけ作者の社会、もしくは対個人に対する思想・思考が強烈に込められている作品だと思います。

 それだけ良い作品だと言えます。

 ですので、好きではないからといって他人に「読むなよ」とは言いませんし、読むことを必要とする人には自信を持って勧めます。


 で、都合の良い事を言っているように聞こえるかもしれませんが聞いてください。

 好きではないですが、貴方が今回書いたような物語を求めている読者さんは沢山います。

 その読者さん達に貴方の作品を届ける方法としては、やはり信頼できる人と出会い、出版への道筋を築いていくのが大事だと思います。信頼できる人とは、貴方が信頼できる先輩作家さんとか編集者さんという意味です。


 私に出来ることが何かあればいいのでしょうが、ここでこうやって感想を書くくらいのことしか出来ません、それが残念です。


 □

 最後に。

 すごく才能のある方だと思います。


 ただ、すごく失礼ですが、何か作者さんご自身も答えを出せていない、問いの立て方もまだ分からない領域を心にお持ちで、持て余していらっしゃるように感じます。

 その部分が作品を生み出すための熱気や狂気やバランスの狂いに似たものになっているように思えてなりません。


 私も似たような性分の人間だと思いますが、貴方は才能がある上に将来があります。ですので、困難な道と思いますが、ご自身の心を御する方法を手にされて、上記の部分を一周されて攻略されましたら、大きく一流作家への道が敷かれていくと思います。


 求めていらっしゃった感想ではなかったと思いますが、全力で読み、全力で感想を書かせていただきました。

 今回の縁に感謝しつつも、今後の活躍を祈念しております。

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