俺だってこんなはずじゃなかった

 風呂が沸いた。


「雫。沸いたから入っていいぞ。」


 俺が雫を呼ぶと、何かあったのか真剣な顔をして俺を見て来た。


「………なんだよ。」

「優は何でそんなふうになったの?」

「は?」


 何だ?いきなりそんな事言われても何の事を言われているのかわからない。


「昔はもっと明るかったじゃない。率先して前に立ってみんなを引っ張ってくれてたじゃない。」

「…………そんな昔の話、どうでもいいだろ。早く風呂入れよ」


 俺はそれだけ言い残し、逃げるように台所に向かう。


「…………。」


 雫の刺さるような視線を感じながらも。



 ***


 台所に着き、雫の言葉にもやもやしながらも俺はオムライスを作っていた。


 ………俺だって、こんなはずじゃなかったんだ。

 昔はなんでも出来た。みんなに慕われてるのもわかってた。でも、みんなは離れて行った。


「あーくそ!」


 過去の栄光なんて忘れろ。俺はただの凡人。売れないweb作家だ。


 そう言い聞かせ、俺は心を無にしながら晩御飯を作ろうとしたが。


「………いや、心は無にしてたら駄目か。」


 無心で料理してると事故りかねない。


 とにかく、別の話題を頭の中で用意し、それを考える事で、昔の事を忘れるように努めながらオムライスを作った。



 ***


 オムライスを作り終え、テーブルに並べてさぁ食べようとしている所だが、空気は最悪だ。


「…………。」

「…………。」


 お互い沈黙したまま動かない。

 あぁくそ、これからこんな生活が続くのか?めんどくさいな………。


「いただきます。」

「………いただきます。」


 もうどうでもよくなった俺はテレビをつけた後、食べ始める事にした。


「………おいしい?」

「なんで疑問系なんだよ。」

「本当に優が料理出来るって思わなかったから。」

「まだ信用してなかったのかよ。……オムライスなんて誰でもそこそこ美味しく出来るだろ。」

「………まぁそれもそうかもしれないけど。」


 まだ若干違和感を感じているのか、雫は眉を顰めながら、「美味しい……。」呟きながら食べ続ける。それは美味しいの顔では無いと思うけど。


「明日は私が晩御飯作るから。」

「なんだよ。そんなに違和感あるのか。」

「違う。住まわせてもらってる身だし、私も何か作らないとって思っただけ。」

「お前………、料理出来るの?」

「心外ね。私が料理出来ないと思ってたの?」

「いや、それお前が言う?」


 雫の返しにため息しか出ないが、これ以上あーだこーだ言うのもまためんどくさい。


「……とにかく明日は私が作るから。わかった?」

「わかったわかった。」

「ならいい。」


 一人で納得したのか、雫はこの後特に話す事なくテレビを見ながら黙々と食べ続けた。俺も適当にテレビを流し見しながらオムライスを食べ続けた。


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