雫にとっての中村優

 片付けを始めて一時間ほどが経過し、ある程度住めるようにはなった。


「ありがとう優。後は一人で何とかするから。」

「そっか。なら、俺は飯作るけど要望があったら可能な限りやってやるけどどうする?」

「………優って料理出来たの?」


 雫が心底意外そうな顔で俺を見てくる。何、俺ってそんな料理出来なさそうな顔に見えるのか?


「俺も親ほぼいないから俺がやるしかなかったんだよ。そしたらいつの間にか出来るようになった。」

「そうなんだ………。じゃあオムライスで。」

「わかった。じゃ作ってくるわ。」


 物置部屋から出ていき、台所に立つ。オムライスなら簡単だな。


「まあとりあえず米を炊くか。」


 米を研いだ後、炊飯器に水と一緒にいれ、炊飯のボタンを押す。


 ご飯が炊けるまで時間あるし、小説書くか。


 片付けの途中、少しは文章を考えた。後はそれを思い出しながら書いていけばいい。


 俺はリビングのソファーに座り、書き始める。


 ラスボスを倒して平和になった世界。主人公達はそれぞれ故郷へ帰り、やがてヒロインと結婚する。


 うん。無難だが、これでいい。


 ある程度区切りをつけて、話を終わらせる。投稿する前に一度誤字がないかのチェックをして、予約投稿に設定する。


 この物語もほとんど終わりだし、次は何書こうかな。何も考えてないな。


「………あっ、優。」


 次回作をどうするか頭を捻らせていると、部屋から雫が出て来た。


「どれくらい進んだんだ?」

「ある程度。とりあえず今日はこの辺にして明日また片付ける。」

「そっか。晩飯まだだし、俺今から風呂沸かしてくるから入れよ。」

「えっ、いいよ。自分でやる。」

「いやいいって。最初くらい俺がやってやるよ。」


 そう言い残し、俺は風呂場に移動した。



 ***


 優とは産まれた時から一緒だ。

 同じ病院で産まれ、隣の家で暮らし、幼稚園から高校生に至るまでずっと一緒だった。


 小学生まで、優はヒーローに見えていた。


 勉強も運動も器用にこなし、率先して前に立ち、みんなからの人気者だった。なのに優は変わってしまった。


 周りを気にして後ろに立つようになったり、雰囲気も暗くなって、自己主張もあまりしなくなった。


 ねぇ何でなの?ヒーローだった優はどこに行ったの?



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