これは……、あれだな
小学生の時、互いに家へ招きよく遊んでいた。
そんな事もあって俺は特に何も気にしていなかったのだが、雫はどうも違うようだ。
「………。」
辺りをきょろきょろ見渡し、少し顔を赤くしている。お前にとって俺の家なんか緊張するに値しないだろ。
「片付けるからここ使えよ。お前昔ここでよく寝てただろ。」
今はもうほぼ物置となった部屋を雫に渡す。
「うん……。ありがと。あっ、私も片付けるよ。住まわしてもらう身だし。」
「まぁ、でも片付けはとりあえず着替えてからだな………って、着替え持ってんの?」
自分の家に帰る前提だったんだから服は持っているはずはない。だが、一応聞いてみたら雫は「あっ」とだけ小さな声を漏らす。
「………無い。どうしよう。」
「制服で寝るしか無いのかな………。」と独り言を呟き始める。
「……お前が嫌じゃなければ俺を服を使えよ。嫌なら今から服買いに行け。」
「…………わかった。今日だけ使わせてもらう。」
渋々の反応だったが、まぁそれはそうだろう。俺は幼馴染ではあるけど彼氏でもなんでもない。それに最近はそんなに親しくしてた訳でもなかったし。
「ちょっと待ってろ。中学生の時に着てた服ならちょうどいいだろ。」
俺は自分の部屋に行き、棚を漁る。
捨てようと思ってたけど、まさかこんな形で再び役に立つ日が来るとは思わなかった。
「あったあった。」
雫が着れそうな物を取り、雫に渡す。
「これ、とりあえず着とけよ。」
「……うん。わかった。」
雫が着替えるのに俺が同じ空間にいる訳にはいかない為、俺はまた自分の部屋に戻る。ついでに俺も着替えるか。
ある物で適当に着替える。
「着替え終わったか?」
「えっ!?ちょ、ちょっと待って……!」
「はいよ。」
俺の服を着るのに抵抗があるようだ。
待っている間にベッドに寝転がり、小説の続きを書き始める。
前回は主人公と仲間の絆でラスボスを倒したし、この後はどう書こうか。
ある程度ストーリーは決まってるけど、文章に起こそうとすると中々書き出せないんだよなぁ。
そう思いつつ、少しずつでも書いていこう思っていたが……。
「………うーん。」
書こうにも何も浮かばない。
そう思っていると、扉のノックする音が聞こえた。雫が着替え終わったんだろう。
「………ご、ごめん。待たせて。」
そう言って現れたのは、俺の服を着た雫だった。
うん。これは………、あれみたいだな。彼氏の服を着る彼女。いや俺達はただの幼馴染だけど。
「別に気にしてない。それより、さっさと片付けてしまおう。」
「う、うん。」
雫の部屋として使えるように物置となってしまった部屋の掃除を始めた。
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