第44話

 私は銀行で小切手をお金に換えて貰い、口座の中に入れた。

 今回もかなりの金額になったけど、命を擦り減らしているのだからそれも当然かもしれない。


 などと私は考える余裕もなく、とにかく無事に終わったことだけで胸が一杯だった。

 その足で帰路に着くと、私はバタンキューとソファーにうつ伏せで倒れ込んでしまった。


「ううっ、やっと終わったぁよぉー」


 私は細目になって今にも眠ってしまいそうだった。

 それもそのはず、ここまで心は安堵しているつもりだった。

 だけどそれすら建前でしかなく、私がようやく解放されたのは今からだった。


 あー、もうクタクタ。眠いよ。

 私は全身が疲れ切ってしまった。

 ソファーから動けそうにない。


「ううっ、これで良かったのかな? 本当に、これで良かったんだよね?」


 正直納得は言っていない。だけど納得するしかない。

 私は唇を噛み、奥歯を強く噛み締めた。


 もう疲れた。寝たい。いや、眠ってもいいんだけどね。

 私はソファーに顔を埋め、考える思考すら停止しようとした。

 ゆっくりゆっくり意識を奪い取って行く。

 目の前の光りが失われ、そのまま意識を……


 ヴゥーヴゥーヴゥーヴゥー!


 失うことはなかった。

 私はポケットの中からスマホを手繰り寄せる。


 マナーモードになっていたからスマホが震えていた。

 なんだろう、そもそも誰からだろうと思い画面を見てみる。


 そこには見慣れた名前が表示されていた。

 私はソファーから飛び起きてしまうと、キッチリとした姿勢をしてしまった。


「な、な、な、なんで麗翼ちゃんから!?」


 麗翼ちゃんからメッセージが来ていた。

 私は指が震え緊張してしまう。

 アプリのアイコンをタップして、届いていたメッセージを確認した。



麗:すむちゃん大丈夫?

麗:もう家に着いた?

麗:怪我とかしてない? ちゃんと家に帰れてる?



 完全に心配されていた。

私はポカンと口を開けてしまうと、如何したら良いのか分からなくなる。

麗翼ちゃんにここまで心配を掛けてしまうなんてと、胸の中で騒めく。

呆れるほど慌ててしまうと、とりあえず安心して貰おうと、震える指でスマホを触る。



進:大丈夫だよ。ちゃんと帰れてるよ

進:心配してくれてありがとう



 私は麗翼ちゃんのことを安心させてあげようとした。

 すると私が安心している間に、麗翼ちゃんは流れるようにメッセージを送っていた。



麗:ホント! よかったよ~

麗:でも本当に心配したんだよ

麗:ずっと気にしてるのかなって

麗:住職さんのおかげで少しは和らいだと思ったんだけど

麗:私の勘違いだったらごめんね



 麗翼ちゃんが謝る必要なんて何処にもない。

 私は自分に悩まされてしまったせいで、周りも心配させていることに、とっても心が痛くなる。

 だけど麗翼ちゃんはきっと気に病んではいないはず。

 私はそう思い込むことにして、少しだけ喉を鳴らした。



進:ううん。勘違いじゃないよ

進:私、不安症だから

進:でもね、麗翼ちゃんが気に掛けてくれてることは伝わっているよ

進:いつもありがとう



 本当は麗翼ちゃんは私なんかに構っている必要はない。

 だけど貴重な時間を私のために割いてくれている。

 申し訳ない気持ちもあるけれど、それを凌駕できたら嬉しい。

 ただひたすらに今はその意識に飲まれると、麗翼ちゃんからメッセージが素早く返る。



麗:本当に大丈夫なんだよね?

麗:無理しないでね

麗:私達友達でしょ?

麗:ううん、もう親友って言ってもいいよね?



「し、親友?」


 私は怖気づいてしまった。

 言葉の圧力が胸を打ち付け、一体如何反応したら良いのか分からない。

 もちろん何処で友達から親友に昇格したのかも分からない。

 私は頭の中がグルングルンしてしまうと、麗翼ちゃんのメッセージが返って来る。



麗:ごめんね。変なこと言っちゃったかな?

麗:でも私はそう思ってるよ

麗:でさ、明日暇?



 ん? なんだろう。

 私はカレンダーを見なくても分かる通り暇も暇だ。

 やることもないから如何しようと思っていたけれど、もしかしてダンジョンに行くのかな? 私はそれなら手伝ってあげようと思いすぐに返信をした。



進:うん。暇だけど

麗:そうなの! それじゃあ明日遊ぼうよ!



「あ、遊びの誘い!? えっ、ど、どうしよう? ……ど、ど、ど、どうしよう!」


 私はパニックになってしまった。

 如何しよう。如何しよう。如何しよう。

 私は慌てふためいてしまった。


「と、とりあえず返信……」



進:う、うんいいよ

麗:ホント!

麗:それじゃあ明日ここに来てね

麗:大丈夫。近いから



 住所が送られてきた。

 ヤバい、如何しよう。これって絶対にヤバい。

 私は如何したら良いのか分からないけど、慌てふためいて困惑する。


 勢い余って即座に返信してしまった。

 だけどこれは最善だったのかな。

 一体如何したら良かったのかな。


 そもそもが話、私休日に友達と遊んだことなんて無い。

 一体何をしたら良いのか分からない。

 私は自分の選択が最善で採択なものだったのか、イマイチ信用ができないまま一人で苦悩することになった。


「あー、もう、如何したら良いのー!」


 そのまま再びバタンキュー。

 頭の血管が破裂する勢いで考え事に耽り過ぎてしまった。

 スマホがゴトンと床に落ち、私はそのまま意識を単純に失った。

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