第34話

「それじゃあカメラドローンを飛ばすよ」

「う、うん」


 私と麗翼ちゃんは穴の前で配信の準備をする。

 カメラドローンを飛ばし、私達のことを無言で映し撮る。


 スマホでも配信ができていることを確認。

 麗翼ちゃんは「うん!」と笑みを浮かべる。

 如何やら満足行く映像が撮れているみたいで、待機画面を外して、早速配信を始めた。


「みんなこんにちは。ウルハです、今日も配信をやって行くよ!」

「えっと、また呼ばれました。アスムです。よろしくお願いします」


 私はウルハちゃんの隣で小さく手を上げて自己紹介をする。

 するとたくさんのコメントが流れていた。

 これもウルハちゃんの集客力の成せる技で、加えて休日が起因していた。

 とにかく凄いことになっていて、私は画面越しでも緊張が隠せない。



:ってことはもしかして?

:ダンジョンに来たってことか

:今日は何処ですか?

:アスムさんだ!

:チャンネル登録しましたよ!

:アスムさんもいるんですか!

etc……



「うわぁ、たくさんコメント来てるね。えっと、なになに……アスムさんがいるってことはダンジョンですか? うん、そうだよ!」


 私の腕をウルハちゃんは掴んで掲げる。

 にこやかな笑みを浮かべると、そのままくっ付くように近付く。

 仮面越しで瞬きをするも、ウルハちゃんは完全にわざとで、ビックリしている私のことを揶揄っているようしか思えない。


「ウルハ、私そういうの嫌だな」

「えっ、嫌なの!? ごめんね、過度なスキンシップだったかも……離れるね」


 ウルハちゃんは私から離れた。

 コメント欄も何がなんだが分かっていない。

 しかしながら、私はウルハちゃんに悪いと思い、あたふたしてしまうが訂正する。


「ああ、そういうことじゃなくて。揶揄われるの、あんまり好きじゃないだけ」

「それじゃあまた抱きついてもいい?」

「えーっと……えっと」


 私は固まってしまった。てんやわんやで如何したらいいのか分からない。

 目が右往左往してしまい、豆腐メンタルな私には収拾を付けられなかった。



:キャッ!

:うわぁ!

:大胆だなー

:ウルハさんかわいい

: アスムさんビックリしてるw w w

:百合百合してるねー。いいよ、いい!

etc……



 そんな姿に面白みを抱いたのか、コメントは盛り上がる。

 私は気恥ずかしくなると、ウルハちゃんに助け舟を出される。


「もう、みんな揶揄うのはダメだよ。それより、今日のダンジョンは凄いんだよ! ねっ、アスム」

「うん。今回のダンジョンはここ」


 カメラドローン誘導すると、ポッカリと空いた暗闇が目に止まる。

 コメント欄は盛り上がりを見せた。滝のように流れるコメントを掻い摘む。



:なにこれ?

:何処ここ

:何しに来たん?

:洞窟探索ってことですか

:なんもなさそう

:穴ですか?

etc……



「そうだよね。ただの穴に見えるよね?」

「でもここはダンジョンだよ。画面のだと分からないかもだけど、全身を禍々しい気配が駆けるのが分かるから」

「うん。ちょっと怖いくらいだよね」


 ウルハちゃんはそう答えた。確かに不気味で怖い。

 しかし行かなくちゃいけないので、ウルハちゃんは勇気を振り絞る。

 私も竦みそうになる足を奮い立たせると、マイク越しに答えた。


「今回のダンジョン探索はしっかりと許可を貰って調査をするよ。だから怖いシーンがあっても、自己責任でお願いしますね」


 一応これで保険は掛けておいた。

 ウルハちゃんは私のことを待っていた。

 上半身を振り返ると、腕を使って誘導する。


「アスム、早く早く!」

「うん、待ってて」


 私はアスムの下に駆け寄った。

 目の前には真っ暗な穴。ここには一体何がいるのか。

 まずは最初の一歩が大事で、私とウルハちゃんは一緒に足を前に出すと、全身を駆け抜ける禍々しい見えざる恐怖心に打たれるのだった。




 私とウルハちゃんは穴の中に入ってみた。

 すると案の定言うべきか、中は真っ暗な上に、道はかなり細い。

 少しでも体を寄せれば、すぐにでも岩肌に擦り付けることになる。

 だからだろうか。私達は縦一列になって歩いた。


「なにもいないね?」

「うん。でもこんなところで襲われたら大変だよ」


 細道はとにかく狭い。だからこんなところでモンスターに襲われたらひとたまりもないのだ。

 カメラドローンもギリギリホバーで付いてきてくれているが、スマホの画面を見てみると、映像がカクカクしている。

 おまけにコメントもつまらなそうだ。



:なんもないな

:この間はおもろかったのに

:ダンジョンってこんななの?

:調査って、なにするんすか?

:狭すぎね w

:モンスターに襲われたらヤバいだろ。逆に見たくもある

etc……



 グサリと精神が貫かれる。

 そんなこと言われても面白いことなんてそうそう起きない。そもそも安全第一がダンジョン攻略の鍵なのに、分かってない人が多すぎて私は困ってしまう。


「みんな、そんなこと言っちゃダメだよ。とは言っても、本当になにもないね」

「うん。でもこの先になにが待っているかは分からないよ」

「どういうこと?」

「まだここに、ひゅるひゅん音の原因がないってことだよ」


 今のところひゅるひゅると言う異様な音は聞こえてこない。

 だけど薄らとした風が頬を撫でるのは伝わる。

 きっとこの先に何かはある。その原因がしれないとまだまだ安心はできそうにない。



:ひゅるひゅる

:ひゅるひゅる

:ひゅるるーひゅるるー

:原因ってなに? やっぱ、モンスター?

:ひゅるひゅる?

:ひゅるひゅるって w

etc……



 コメントがたくさん来ていた。

 滝のように流れているが、やっぱり原因はみんな知りたい。

 知らないままにするとモヤモヤしちゃうからだ。


「うーん、原因かー。アスムはなにか見当が付いてる?」

「まだ分からない。ダンジョンはなんでもありだから」


 ダンジョンはなんでもありだ。

 いつ何処でできるのか、如何してできるのか、なにがあるのか、まだまだ分からないことだらけ。

 気を引き締めてギュッと腕を掴むと、視線の先が急に眩しくなる。


 何かあるのか。もしかしたらこの穴の最奥かもしれない。

 となればこれは外から射し込む光だろう。


 私とウルハちゃんは互いに顔を見合わせる。

 少しだけ足早になると、光を目指して奥へと走る。

 もしかしたらモンスターが待ち伏せをしているかもしれない。そうじゃなくても罠かもしれない。

 様々な可能性が脳裏を渦巻く中、私とウルハちゃんはカメラドローンを引き連れて、無事に奥まで辿り着くことができそうだった。

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