第28話
そんなこんなで私と麗翼ちゃんは一緒に空洞町に向かっていた。
町までは電車で一本とはいかず、いくら整備された路線図とは言え時間が掛かる。
運賃はとても安かった。だけど乗り換えが大変で、現時点で四十分は揺られているがまだまだ着かない。
「結構遠いね」
「そうだね。でも私は楽しいよ?」
麗翼ちゃんはお菓子の袋を開けた。ポテトチップスの袋のようで、油の匂いが鼻腔を擽る。
麗翼ちゃんはまずは自分が一枚摘まんだ。それから私にも差し出した。
友達の居ない私はこのイベントにビックリする、一瞬固まっていたが、麗翼ちゃんに肩を叩かれてようやく気が付けた。
「はい」
「あっ、ありがとう」
私はようやく気が付き手を伸ばした。
友達に貰うなんて初めてだ。いつもは自分で買うか作るかどっちかしかしないのに。
なんだか女子高生なのに、青春らしい青春を一切謳歌できていないことに心を嘆かせた。
パリッ!
普通に美味しい。私は胸を撫で下ろした。
それにしても麗翼ちゃんは用意周到だった。
私はほとんど使う物しか持ってきていないのに、背中のリュックサックには一体何が詰まっているんだろう。逆に気になって仕方がない。
だけど訊く勇気は私には無い。
死線を配り様子を窺っていると、チラチラと視界に入る視線が気になってしまったらしい。
私に首を捻ると、「どうしたの?」と尋ねられた。言葉が纏まっていない私はフリーズすると、超高速で脳をフル回転させ、バチッと言葉を作り出した。
「その、用意周到だね」
「用意周到? あっ、お菓子のこと? 電車の運行時間時間を見たら掛かりそうかなって思って用意しておいたんだ。他にも色々あるよ!」
リュックサックの中からは色々なお菓子が出て来た。
スナック菓子に棒状のお菓子。とにかくたくさんで、麗翼ちゃんらしかった。
何がらしいというのか。手持無沙汰にならないように気を遣ってくれていたのだ。
「あ、ありがとう。でもこんなには良いかな」
「えっ、そうなの?」
「うん。せっかく絞ってるのに、ねっ?」
「うっ、痛いところ突かないでよ。苦しいぃ……」
私は麗翼ちゃんが気にしていることを突いてしまった。
グサリと胸を打たれた麗翼ちゃんはダメージを負い、苦しそうに抑えていた。
私はやっちゃったと思い、てんやわんやになってしまう。手のひらをアワアワさせると、麗翼ちゃんは蹲って笑いだした。
「ふふっ、すむちゃんって面白いね」
「バカにされてるのかな?」
「そんなことないよ。えっと、ちょっと話を変えるけど、空洞町だよね場所は。調査依頼にあったようなことが、本当に起きているのかな?」
麗翼ちゃんは話を広げるためにわざとそう言った。
あまりにも麗翼ちゃんらしくない。だけどそれも全部
「私は起きてると思うよ! きっとみんな怖いんだよ」
「そうだよね。確かに起きている可能性もあるけど、私はまだ勘違いの可能性も捨てきれないよ。もちろん本当だったら、ちゃんと調べないとダメだけどね」
私なりに麗翼ちゃんへの回答をスラスラ答えた。
もちろん考えていない訳じゃない。ほんの一瞬だけ、思考を巡らせた上で、心の中にあったモヤモヤを言葉として吐き出したのだ。
「ああ、ごめんなさい。怪しむようなこと言っちゃって」
「そんなことないよ。すむちゃんは慎重派だもんね」
麗翼ちゃんはそう言ってくれるけど、私は慎重すぎるんじゃない。
自分のメンタルの弱さに心が揺れすぎているだけだ。
グッと唇を噛むと、その様子に麗翼ちゃんはマズいと感じ話を変える。
「それじゃあ風狸だけど、やっぱり戦うことになるのかな?」
「それは……分からないよ。もしも風狸が攻撃してくるのなら、こっちは反撃するだけ。モンスターだって生きているんだから、むやみやたらと意味の命の奪い合いは、私はしたくないかな」
私は電車に揺られながらそんなことを言った。
すると麗翼ちゃんは私の言葉を聞き入れてくれた。
何か思うところがあるのか、私は緊張感に包まれた。
「そっか。ふふっ、やっぱり違うね」
「なにも違わないよ。私はただ臆病なだけだから」
私は麗翼ちゃんに褒められるような人間じゃない。
ただの臆病者の探索者。いや一人の人間だ。
モンスターを倒す時だって躊躇いはあるし、豆腐メンタルはいつだって揺れている。
だからこそ私はダンジョンに行くんだ。ダンジョンを潜って心を強くするために。そんな漠然とした答えが胸の心中を蠢きながら、窓の外の景色に視線を飛ばすことにした。
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