第25話
シュンシュン!
シュンシュン!
シュンシュンシュン!
私は自分の家の庭先で縄跳びをしていた。
今日は二十飛びからの三十飛びで軽く準備運動をする。
軽やかな動きに体が反応し、軽快なジャンプを見せる。けれど周りには当然のごとく誰もいない。
如何してこんなことをするのか。そんなのは至ってシンプルだった。
毎日の運動は欠かさない。と言うよりもやることがない。
私は友達が今までいなかったから何をするにもほとんど一人。
そんな時間を埋め合わせるために小学校から始めたのが運動と勉強。後はちょっと色々と、齧るものがたくさんあったけど、一応まめに続けていた。
そのおかげで私は成績が良い。
これが私が学校での生活で、コミュニケーション能力とメンタル面の強さ以外で手に入れた武器にも満たない武器だった。
「ふぅ。今日はこのくらいでいいよね。……ううっ、勉強と運動ができたって、私には個性がないもん」
私は自分で言って自分で傷付いてしまった。
もしかして自虐が好きなのかな? そんなありもしない勘違いをしてしまうレベルだ。
豆腐メンタルの耐久値がステータスバーが見えなくてもボロボロになるのが分かる。
こうしている間にも腐食しているのが伝わった。
「こんな時にすることは……」
私はスマホを取り出した。
縁側で脚をブランブランさせて観たい動画を探す。
すると出て来たのはチャンネル登録した麗翼ちゃんのチャンネル、〈《ウルハちゃんネル》〉だった。
「麗翼ちゃんのチャンネル、また配信してる。凄いな、今日は料理配信なんだ」
ポチッと画面をタッチした。
すると配信中の映像がスマホの画面に映し出される。
『それじゃあトマトソースを作って行くよ! あっ、投げ銭ありがとう!』
コメントもたくさん来ていた。
如何やらトマトスパゲッティを作っているらしい。
キッチンの様子が映し出され、定点的に表示された別カメラには鍋の中の茹で上がったパスタ麺が投入されていた。
「あっ、パスタ作ってるんだ。しかもトマトソース自分で作ってる」
ウルハちゃんは慣れた手付きでトマト缶を開けていた。
けれど他に材料らしきものは無い。
指には少しだけ絆創膏が貼ってある。もしかしたら怪我をしたのかもしれない。
「ウルハちゃん、料理苦手なのかな?」
ウルハちゃんはそんなに不器用じゃない気がする。
私は勝手なイメージを抱いてしまったが、それでもウルハちゃんは丁寧にパセリを潰し、トマト缶の中に入っていた大きめのトマトの塊を潰す。
一生懸命作業をする様子に何だか心が温まる中、私は嫌な予感がした。鍋の方に視線を向けてしまうと、その中のパスタ麺が大変なことになっていた。
「あー、パスタ茹ですぎだよ。そんなに茹でたら……」
如何やら誰も気が付いていない。
配信が始まった時間を見るに、パスタの湯で時間を計算すると、ちょっと茹ですぎな気がする。
けれど柔らかめが好きな人も居る。私がそう思いここは押し黙ることにしたが、一向にパスタを鍋から上げようとしない。
「本当は八分で良いはずなのに……あっても十分……配信的に二十分も茹でたら……ああ、鍋の中が……ああ」
鍋の中がパスタ麺の粉色になっていた。
流石にこれは湯がきすぎだ。
私は教えてあげないとダメだと思い、今まで送ったことはないが、投げ銭付きでコメントを送った。
:ウルハ、鍋をちゃんと見ないとダメだよ!(1,000円)
私がコメントを送るとウルハちゃんはすぐに気が付いてくれた。
嬉しそうに手を振ってくれる。
『うわぁ、アスムからコメントだ! ありがとう、えっとなになに? 鍋をちゃんと見ないと……あっ!』
ようやく気が付いたらしい。
目を見開きテンパった様子で鍋の中を見た。
急いでパスタ麺を救出する。しかし時すでに遅し。湯がきすぎた結果、麺はプチンプチンと千切れてしまい、完全に必要以上にふやけていた。
『あっ、やっちゃった……』
ウルハちゃんは声を失った。
パスタ麺が悲惨な結末になり、ここまで頑張ってきたことが無駄になってしまった。
そう思い込んでいるようだが、ふやけただけでまだ食べられる。
『みんなどうしよう? まだ食べられるかな?』
もちろん食べられる。ウルハちゃんも気が付いているようで、コメント欄の呼びかけもあり、そのまま使うことにした。
プチンプチン千切れたパスタ麺を水切りし、皿に移すとここまで頑張って作ったソースを掛けた。
見た目はかなり美味しそうで、トマトソースがかなり活きている。
「美味しそう」
私もポツリと呟いた。
ウルハちゃんも満足そうで、皿に盛られたトマトスパゲッティはかなり美味しそう。
ちょっと水っぽいかもしれないけど、早速ウルハちゃんは食べてみて、目を見開いて感想を言った。
『トマトソースが美味しい!』
まさかのパスタ麺については触れない選択肢を取った。
きっと相当ショックだったんだ。ウルハちゃんの意外な一面を私は観ることができたが、ウルハちゃんはすぐに恥ずかしそうになる。
顔を赤らめると、頬をポリポリ掻いていた。
『ありがとうアスム。今回はトマトソースに集中しすぎちゃって失敗しちゃったけど、次はもっと上手く作るからね!』
ウルハちゃんは私をメインにそう言ってくれた。
まさか何千人も配信に集まっていたのに気が付いていたのが私だけだとは思わなかった。
本当にウルハちゃんは注目を集める体質だ。カメラ越しでも効果が有るなんて、凄すぎる以外に言葉が出ない。
「だからウルハちゃんは心が強いし、失敗した姿を見せたくなかったんだ」
何となく私はウルハちゃんの魅力の裏側を見た気がする。
もちろん大したことは言えない。けれど私の前くらいはもっと緩く居て欲しい。
何となくそんな友達になれたらいいなと、漠然とした願望を抱き豆腐メンタルがキュッとした。
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