第24話

 私はいつも通り学校に通う。

 ただ一つ違うことがある。それは私のメンタルの問題だ。


 まさかダンジョンに二度も連続で行くなんて。

 もちろんダメージを負ったわけではないが、少なくとも私自身はあまりの激変に心底胸を打った。


 学校に行く足も憂鬱だ。このまま帰りたい。

 だけどそんなことをしたら授業に遅れる。

 それで成績が下がるほど、私の学力は低くないが、それでも嫌悪されるかもしれない。いや、むしろ忘れられるかもしれない。


 色んな思考が入り乱れる。

 私は苦しくなって俯き加減で歩いてしまった。


「はぁー。どうなっちゃうのかな」


 何に不安なのか。もちろん麗翼ちゃんの配信に出たことだ。

 もしかしたら、もしかしたらだけど、私のことに気が付く人もいたかもしれない。


 もしそうなら嬉しいも反面恥ずかしい。

 いや、それよりも軽蔑されるかも。

 だって相手はクラスの人気者、学年一の美少女と謳われる人気配信者の麗翼ちゃんだ。


 そんな人と一緒にいる私なんてただのポッと出。

 それよりも酷く、付き纏っている奴だ。

 きっと迷惑になる。考えただけで心が痛い。


「ううっ、一体どんな顔をすればいいのかな」


 私は俯きながら教室に向かった。

 するとそこにはいつも通りの景色が広がる。

 誰も私のことを見ていない。いいや、気が付いていない。

 完全に陰に溶け込み、私はこっそり過ごす。


「ふぅ。そうだよね、これでいいんだよね。落ち着く」


 私はフッと息を整えることにした。

 いつも通りお気に入りのライトノベルを読むことにし、私は時間を潰す。

 そうしていると、不意に教室の外へと視線が注がれていた。誰か来たみたいだ。


「みんなおはよー」


 私はビクッとした。

 突然背筋を伸ばして椅子を丁寧に揺らしたことで、周りはキョロキョロする。

 しかし何事もなかったかのようにスルーされた。

 私は悲しくなるが、それもそのはず絶対的な注目の集まる人がいた。そう、麗翼ちゃんだ。


「あっ、瀬戸内さんおはよう」

「麗翼ちゃん、おはよう〜」

「瀬戸内さん、おはような」

「瀬戸内、ちわぁーす」


 男女に囲まれる麗翼ちゃんの姿がある。

 近くに行かない人達も自然と目線を奪われる。

 私もそのうちの一人になりそうで、自然とライトノベルに移った。私なんかが変に見てたら気を悪くさせちゃうかもだ。


「麗翼ちゃん、昨日の配信観たよ! 凄かったね、怖かったよね?」


 早速話題が昨日の配信に移る。

 私はビックリして息を吸えなかった。

 呼吸困難になりかけたが、麗翼ちゃんは優しい笑みを溢す。


「うん。でも私は平気だったよ!」


 それもそうだ。なんたって麗翼ちゃんは強い。

 あれだけ恵まれた能力なの上に、それを自分の手足同然で扱える。

 それを配信と同時にできるなんてまさにスペシャル。そう思っても不思議じゃないが、それは如何やら私の買いかぶりらしい。


「でもね、一歩間違えば死ぬところだったんだよ。私も一人だったら上手く戦えてなかったかも」


 そんな節はほとんどなかった。

 むしろガツガツ前に行こうとしていて、配信の撮れ高を探していたと思ったのは、私の勘違いだったのかもしれない。


「えっ? 撮れ高的には十分じゃないのー?」

「それはそうだけど、今回はたまたま生き残れただけだよ。ダンジョンって危険で、私もアスムが居てくれたから頑張れたんだよ」


 私は驚いてしまった。

 目を見開き、視線を一瞬注ぐ。

 すると話題が好転する。私のこと、つまりはアスムのことを話し出した。


「アスムさん、すっごく強かったね!」

「おまけにカッコよかった!」

「俺も配信観てたけど、あれだよな。できる奴だよな」

「てか、配信には向いてなくね? 単純に探索者として一流っていうか」

「そうそう。個チャン観たけど、全然喋んないし、なんだろ? Vlog形式って感じだよね」


 散々な言われようだった。

 それにしても私の配信がVideo Blog=Vlog扱いされるとは思いもよらなかった。


 とは言え、言われてみれば的は射ている。

 私もふと考えて見れば見るほど、それに似ていた。

 だけど私のやっていることは、ダンジョン配信の一部だ。だけど麗翼ちゃんみたいに撮れ高は全然無い。むしろ無いに等しかった。


 けれどこうして観てくれる人がいて嬉し恥ずかしい。

 私はもじもじしてしまうが、麗翼ちゃんはそんな私のことなど気にしない。

 むしろ私のことを余計にアピールする。


「そうだよね。カッコいいよね!」


 まずはそんなところから始まる。

 すると麗翼ちゃんは続けた。


「ううん、可愛カッコいいよね! 私を助けてくれた時から、私ずっとそう思ってるんだ!」


 グサリと胸を貫かれた。

 痛い、痛すぎる。そんなの単純にイタい奴だ。

 それに余計に尾鰭を付けると、きっと反論が入る。そう思ったのも束の間、クラスメイトはこう言った。


「そうだよね。あの態度がいいよね!」

「いざって時に頼りになるヒーローって感じ」

「しかも声が良い」

「分かる! 歌とか歌えばいいのにね〜」


 なんだろ。ドンドン私の知らないところに話が進展しつつあった。

 私はグサリグサリと苦しみを上げる。

 もちろん恥ずかしいからで、今までに感じたことのない衝撃に、豆腐メンタルが擦り減る。HPはもうゼロに近い。あー、早く終わってほしいと耳を塞ごうとした。


「でもね、私は一緒にいて楽しいよ。だって、最高な友達だから」


 麗翼ちゃんはそう答えた。

 すると私の豆腐メンタルがふんわりする。

 一体何故? だって私のことを楽しく話してくれているから、それ以外に他ない。


「なにも気にしなくて良かったんだ」


 私はあと少しでHRが始まる。

 ライトノベルを片付けようとすると、ふと麗翼ちゃんが私の近くに立っていた。


「な、なに!?」


 驚いて声を上げた。

 すると麗翼ちゃんは私の耳元に小さな声でこう伝える。


「さっきの、全部本当だよ」

「はうっ!?」


 私は恥ずかしさのあまり声を上げてしまった。

 一瞬我を忘れて顔を真っ赤にする。

 しかし麗翼ちゃんはその様子を楽しんで、にこやかに微笑みかけるだけだった。

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