第23話

「ふはぁー。疲れたぁー」


 私は家に帰ってくるや否や、リビングのソファーに倒れ込む。

 全身が脱力感に苛まれ、ピクリとも動きたくない。


「あー、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! な、な、なんで、なんで、うわぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁっ!」


 私は叫びが止まらなくなる。

 心からの叫び。豆腐メンタルが破裂しそうだ。

 皿の上で爆散し、バラバラになって砕け散りそうだ。あー、苦しい。痛い痛い。あれで良かったのかな? 不安だよ。と、私は気持ちが破裂しそうだった。


 ソファーにうつ伏せになったまま、完全にパタリだ。

 ピクリでパタリ。もうお終いだ。

 心が疲弊し切ってしまい、何にもやる気が起きない。


 コトン!


 ふと傍を見ると、刀が落ちた。

 ソファーに立て掛けたはずだったのに、ゴソゴソしたせいで落ちたらしい。

 私はそんな〈時知丸〉がふと目に止まり、ギュッと唇を噛みながら笑みを浮かべる。


「でも私、ちゃんと帰って来れたんだ。麗翼ちゃんも……」


 刀を見たらホッとした。

 胸を撫で下ろすと、私はソファーから起き上がる。

 それからちゃんと座り直すと、肩の力を抜いてボーッとした。


 体の中の悪いものを全部吐き出す。

 深呼吸を深く行い、全身の気持ちをリフレッシュ。

 そんな私はふとスマホを飛び出すと、麗翼ちゃんと連絡を取ろうした。


「どうしよう。なにか言った方がいいよね、多分……」


 でもなんて返せばいいのか分からない。

 ゴクリと鈍い唾液が喉を流れる。

 考えるだけで豆腐メンタルが潰れそうになり、指がプルプル震えて定まらなかった。


「ふはぁ!」


 そんな中、スマホが急に震えた。

 メッセージが来たのだが、その相手は麗翼ちゃんだった。

 今からメッセージを送ろうとしていたのに、突然すぎでビックリした。



麗:今日はありがとう!



 そんなの私も同時気持ちだ。

 えっと、えっと、となりながら、私はメッセージを打ち込んだ。



進:私もだよ。麗翼ちゃん、ありがとう



 とりあえずこんな返しかな。

 私は困ってしまい、不安がよぎった。

 しかしながら、麗翼ちゃんはメッセージを更に送っきてくれた。



麗:今までにないくらい、ダンジョンが楽しかったよ

麗:これもすむちゃんがいたおかげ

麗:私一人じゃ、多分死んでたよ

麗:助けてくれてありがとう。本当に大好きだよ♡



 恥ずかしかった。私は顔が真っ赤になる。

 頭の中が真っ白になりそうで仕方がなく、戸惑ってしまい指が固まる。


 だけど何か返信しないと。

 そんな義務感から、私はゆっくりポチポチ押しながら、メッセージを送った。



進:私も楽しかったよ

進:上手くできたか分からないけど

進:これからも、頑張りたいな



 私は頑張って気持ちを伝えた。

 すると迷った様子が、しばらく返信がない。


 不安だ。不安が波のように一気に押し寄せる。

 豆腐メンタルが持ちそうにない。

 全身が震え出し、嫌われたと勝手に想像して坩堝に落ちていく。


 全身から血の気が引く。

 唇が震え、プルプルと臆病が迫る。

 ゆっくりと見えない恐怖が迫りより、グチャグチャになりそうで仕方がない。


 そんな勝手な怯えに閉じこもっていると、急にメッセージが一つ投げられる。

 私は恐る恐る覗き込むと、それは案の定麗翼ちゃんからだった。



麗:私もだよ。これからもずっとずっと、頑張ろうね♡



 そのメッセージに少し安心。

 私は唇を噛み、メッセージをポチポチ書く。



進:こちらこそ、お願いします


 私は勇気を持って返信した。

 すると心がやや温まってきた。

 震えていた心と体が余裕を取り戻す。

 今まで感じたことのない、未知の高揚感が支配すると、私は一人呟く。


「今日は本当に良かったかも」


 こんなこと今までなかった。

 だけど確実に言えた。今日は楽しい一日だったと、心の一ページにしっかりと書き留めることにした。

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