第22話
私はウルハちゃんを抱きかかえていたが、しばらくすると意識を取り戻した。
恥ずかしモードから解放されると、いつもの豆腐メンタルに戻る。
それから我に返ると、ウルハちゃんのことを下ろした。
「ご、ごめんさない。よ、よいしょ」
私はウルハちゃんに謝った。
するとパンツに付いた汚れを払い落としながら、ウルハちゃんは私の顔を見た。
ニコッと頬むと、私は緊張で真っ赤になる。
「ありがとうアスム」
「そ、そんなことないよ。友達でしょ?」
「おっ! そりゃぁ」
私は震えながらウルハちゃんにそう言った。
緊張したままモジモジしてしまうと、ウルハちゃんは表情がパッと明るくなる。
それからにこやかな目をすると、思いっきり私に抱きついてきた。突然のスキンシップに困惑する。
「ええっ、ちょ、ちょっとなにするの!」
「うーん。こうしたかったからかな?」
「理由になってない、よ」
私は頭の中がぼんやりした。完全にオーバーヒートしてしまう。
そんな状況でも、理由を訊こうとした。けれどまともに教えてくれなかった。
「こうしたかったから」は私の中では理由じゃないのだ。
「それより無事に倒せて良かったね」
「そ、それより? う、うん。ウルハのおかげだよ」
急に話をすり替えられてしまった。
私は咄嗟に頭の中を急速冷却すると、ウルハちゃんの話に合の手を入れる。
だけど決して自分がやったとは言わないし思ってもいない。これも全部ウルハちゃんのおかげだからだ。
「そんなことないよ。最後仕留められたのは、アスムが私の意図を汲み取ってくれたおかげなんだから」
「それはたまたま……じゃないよね。ごめんなさい」
私は反論しようとした。だけど咄嗟に口を噤んで止めた。
これは二人で勝ち取った勝利だ。
友達としてお互いが信頼し合えたおかげでできたと、私の中で結論はとっくに出ていた。
だからこそウルハちゃんの気持ちを汲んで、納得することにした。
「そうだよ、これは偶然なんかじゃない。私達が掴んだ必然なんだよ!」
ウルハちゃんはとってもカッコ良かった。
私はポッと表情が赤くなる。顔が熱くて仕方ない。
まさかそんな気恥しいことを平然と言うなんて、仮面を被っていて本当に良かった。
胸を心の中で撫で下ろすと、豆腐メンタルをギリギリで支えた。
「そうだね。必然だよね」
「そう言うこと。ほら見て、コメントもたくさん来てるよ!」
ウルハちゃんはスマホでコメントを確認した。
私はふとマズいと思った。
さっきまで呆れられてドン引きされていたのだが、そんなのウルハちゃんが知ったら、きっと傷付いてしまう。
「ま、まって、ウルハ!」
「ほら!」
私は止めに入ろうとした。けれど間に合わなかった。
私は手を伸ばしていたけれど、ウルハちゃんはスマホの画面を見てしまい、コメントを高速で確認した。それから私ににこやかな笑みを浮かべて見せると、私の瞳はコメントを捉えた。
:カッコ良かった!
:凄い、マジで凄い
:アスムさん、ウルハさんにハグされてた! いいな~
:こんなスキンシップ多めなウルハさん、初めて見ました(1,000円)
:終わってみればやっぱる凄い。絶対勝てないと思ってた……
:本当におめでとうございました(5,000円)
etc……
「あ、あれ?」
首を捻って瞬きを何度もした。
そこにはコメントが投下されていたが、さっきとは異なり私達の活躍を盛大に称賛してくれていた。
一体何故? スクロールをしてみるが、ドン引きされたのは本の一時で、それ以降はおめでとうコメントが溢れ返っていたのだ。
「本当だ。たくさんコメントで称賛されてる」
こんなことなんて一度もなかった。
ほとんどがウルハちゃんに向けてなのは仕方がないが、私のことも褒められていた。
恥ずかしい。豆腐メンタルが湯豆腐メンタルになって、ドンドン崩れていく。もう限界だ。これ以上は耐えられない。
「ほらほら、アスム投げ銭貰ってるよ。なにか言わないと」
「そ、そうだね。ありがとう、私達は無事だよ。みんなはどうだった? 怖かったよね?」
不安を吐露してしまった。怖かったのは本当は自分かもしれないのに。
それを言い放つことで、自分は怖くなかったなんて嘘を付いてしまった。
そんな気は一切無いが、どうしても豆腐メンタルで不安症な私の心は沈み行く。
けれどコメントをくれる人は優しかった。ボロボロに叩かれると思ったけれど、ダンジョンの怖さを配信で体感したせいか、みんな生き残っただけで褒めてくれる。
「みんなありがとう」
「ふふっ。やっぱりダンジョン配信って凄いね。目の前の興奮と恐怖が混ざって、私達の心グチャグチャにしちゃうんだもん」
なかなか上手いことを言った。
私はダンジョン探索の一端を垣間見た気がしてしまい、ちょっとだけメンタルが終わりに向かっていた。
もう無理だ。これ以上は行きたくない。むしろ行かない方が良い。私の能力が関係ないところで訴えかける。
「ウルハ、そろそろ帰ろう」
「うん。今日はこの辺で良いかもね。それじゃあここまでご視聴ありがとうございました。またダンジョンで配信するから、スプラッター大丈夫な人達は観に来てね」
「バイバイ」
私とウルハちゃんは手を振って配信を締めた。
とりあえず今日のダンジョン探索&配信は上々以上の何物でもなく、結果として大満足の成果だった。
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